マルコ長編 | ナノ


シャワー室のカーテンを唐突に開けられて、心臓が飛び出るほど驚いた。犯人はマルコ。おれを蹴って、船の隅に転がして、もしかしたらおれを嫌っているかもしれないマルコ。

「な、」

なに、いきなりどうした。いやそれより、さっきなんで蹴ったんだ。やっぱりおれを嫌いになったのか。
聞きたいことは何一つ言葉に出来ない。拒否の返事が来たら、と思うと口が重くなったように動かず、妙な沈黙が漂った。マルコも何も言わない。シャワー上がりにパンツ一丁でこの緊張感。怖い。日常が崩れていく感覚が、おれは何より恐ろしい。

「…っびっくりしたァー!なんだよマルコ!お前もシャワー?」

明るく跳ね上げた声のわざとらしさに気付かないでほしい。マルコの顔は強張っていて、今にもひどいことを言われそうだ。なんで蹴ったか聞きたい。おれを嫌ってしまったのか確かめたい。大時化の中に放置したくせ、なんで今このタイミングで来たのか知りたい。けれどおれはマルコに何か言う隙を与えず、矢継ぎ早にまくし立てた。

「いやもうさっきお前蹴ったろ!起きたら快晴でびっくりだよほんと!いくら忙しいっつっても放置はよくないな放置は!風邪ひくっつうの!マルコはなに?シャワー?それともおれになんか用?あ、わかった謝りに来たんだな?いーよいーよお前のヘナチョコキックなんか多少記憶がなくなるくらいだから許すよおれ優しいし!そういやお前もさっきずぶ濡れだったけどちゃんと拭いたか?温まらないと風邪ひくぞ?」

おれが一緒に風呂入ってやろうか!
何か言い出しそうに口を開いては閉じるマルコを無視して、最後はいつものように馬鹿げた提案で締め括った。馬鹿言ってんじゃねェよい、とマルコが軽く怒って、ごめんごめんとおれが謝って、それでおしまい。普段通りならそのはずだった。

    っ馬鹿言ってんじゃねェ!!」

顔が真っ赤に染まって、尋常じゃないほど怒鳴られた。いつものマルコじゃない。顔色が変わるほど怒られたことなんか、今まで一度もない。

「…あ、はい…ごめ、ん」

やばい、泣きそう。


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