SSリクエスト祭5 | ナノ


小さくて柔らかな唇が押し付けられたのはいつのことだったか。今はもう記憶の彼方、おれはまだ若かったし、唇を押し付けてきた張本人であるルッチは若いというよりも幼かった。
『正義』のためにと育てられ余計な娯楽も自由もなかったおれ達は色恋沙汰など相手を騙す手段でしかなく、心躍るようなときめきや胸を締め付ける切なさなどとは無縁の人生である。
あのとき幼い子供らしい稚拙なキスをしてきたルッチも、”お試し”のつもりだったのだろう。どこで聞いたかは知らないが、唇同士を押し付けて得る感覚がどんなものかと。ただそれを大人しく試させてくれる存在がおれだったというだけで、相手など誰でも。


なのでこれは、単なる腐れ縁だ。

あの頃とは違いずっしりとした重みの尻は成長と思えば感慨深いものだが、受け止めるには少々内臓が苦しい。なんせ2メートルばかりもある大男が腹に乗っているのだ。全身が筋肉で覆われていて柔らかさなど欠片もなく、尖った尻の骨が刺さっている。
小さい頃は可愛かったな。まだこの尻にも丸みがあって、体重も軽かったし、唇を押し付けてくる仕草なんかたどたどしくて愛らしさがあった。今なんかもう、その何もかもが消え失せた。

「……なんだその目は」

よく『眉間に皺を寄せると癖がつく』などというが、この見下ろすというよりも見下した目つきも癖がついてしまったのだろうか。ソファに寝そべったおれの腹の上に乗る姿はじゃれついているようにも見えるはずなのに、高圧的な態度のせいでまるきり暴行のためのマウントポジションだ。おっかないおっかない。

「…別に」

ただ歳をとることの残酷さをこの目で確認していただけだ。
顰められた顔は「ふん」と鼻を鳴らしたあとに緩んで、何の感情もなさそうな無表情の相貌が近づいてくる。精悍な顔だ。給仕の間でも人気があるらしい。おれは全然好みじゃないけど。

押し付けられた唇。小さくも柔らかくもない、一般的な、成人男性のかさついた感触だ。ぬるりと無遠慮に入り込んでくる舌は稚拙さなど感じられもしない。老若男女、誰でも落とせそうな技巧を用いたキスだ。まァ落としてきたんだろうなァ、気持ちいいし。

「はー……」
「なんだ」
「かわいくない……」
「幼児趣味の変態野郎が。しっかり反応しているくせによく言う」

尻を後ろにずらして、股間にぐりぐりと押し付けられると生理的反応を示しているそこがさらに元気になってしまう。あー困りますお客様あー困りますあーお客様あー。そりゃ歯の裏まで舐めまわすようなえっろいキスされたら健康的な成人男性は勃起くらいしますよ。このあと何するんだか知ってるわけだし。別に今は任務中でもないんだから抑える必要もないし。あとおれ幼児趣味じゃないから。ただ昔のお前の方がかわいかったよって話。まあそのかわいげのない男のケツを揉みながら言うことではないけどな。

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