ペル続々編 | ナノ


へたのかんがえやすむににたり  




短絡的な考えだというのは重々理解している。けれどおれが取れる行動の中では、これが一番賢明だと思ったのだ。

ペルがおれのことを好きなのではないかという疑心は、チャカに聞いてもその確信を得るまではいかなかった。けれど既に付き合っていると誤解されていることが分かっただけでも行動に出る決意が固まったのでよしとしよう。チャカ以上にペルと親しい人物をおれは知らないし、あちこち聞きまわって深追いすれば誤解や風評を広げることにもなりかねない。そうでなくとも、「確かにペルも否定はしていましたが、朝に半裸で部屋から出てきたらそう思うでしょう!?」ととても狼狽していたチャカのように、おれの軽率な言動で勘違いしてしまっているものもいるのではないかと思えば、早くそれを払拭しなくてはペルのイメージにも傷がついてしまう。だから結婚だ。ああ王弟殿下と付き合っていたかと思っていたが勘違いだったのか、と遠回しにでも知らしめる必要がある。

未だにどうしてペルがおれなんかのことを性的な目で見ているのかは分からないが、いっそ全てを何も無かったことにしてしまえばいい。ペルはきっと、自ら進んで告白してくることはない。男同士だからか、あるいは腐っても王族として生まれてきたおれとの立場の違いを気にしているのか。あるいは元から恋人という間柄になりたいというわけではないのか。
感情を読み取れるようになったとはいえ心の声全てを聞けるわけでもなく、本人に確認しようものならそれこそ寝た子を起こすようなものだ。どうせ、ペルの気持ちに応えることは出来ない。単なるセフレだというならまあ考えなくもないが、ペルが身体だけの関係を求めて人に執着するような不埒な男だとも思えない。どんな可能性を考えたとて、おれがこのタイミングで結婚を決めることは悪くない決断のはずだ。

相手はよその国の重役の妹。先日アラバスタに遊びに来たときはとても慎ましやかな淑女に擬態していたが、実際は兄貴とそっくりで豪快に笑う気のいい女だ。とても明るく行動的なのだが、おれとさして変わらない年齢になるまで伴侶を定めていないのは過去に亡くした恋人に心を捧げているからだ。「私は結婚する気なんかないのに周囲がうるさくて困る。いっそ偽装結婚でもしようかな」と酒の席でのぼやきは何度も聞いていて、今までは適当に流していたのだが、先週久々にその顔を見てピンと来た。    そうだ、政略結婚しよう、と。

もちろん酒の席での言葉など信用はない。冗談のつもりが本気に捉えられてしまったと彼女を困らせてしまうこともあるだろう。だが彼女がダメだとしても、幸いおれは長い放浪生活により顔だけは広いのだ。中身がスカスカでボロ雑巾みたいなおじさんでも王族の生まれというだけでコネを作りたがるやつはいるし、彼女のように表面上の婚姻関係を結んで社会的地位を繕っておきたいという女性もいる。そのニーズに対して、おれはうってつけだと思う。相手に対して求めることは婚姻関係の成立と、欲をいえば政府や海軍に立場がある人間なら有事の際に多少融通を利かせてくれるだろうかと期待する程度だ。どこかのお偉いさんと関係を結んでおけばアラバスタにとっても益になり、お相手も王族にコネが出来るというステータスを獲得し、そして実際の結婚生活など別居でも不倫していても構わないというのだから割といい物件ではなかろうか。荒事に関わりのないお嬢様などはおれの傷跡だらけの姿など見たくもないかもしれないが、もしも普通の夫婦として暮らしたいと言われればそれも出来る限り尊重する。前の人生でも経験することが出来なかった結婚生活というのを味わってみるのもいいだろう。

誰かのものになることで、きっとペルの間違った恋心も消えてくれるはずだ。多少後を引くかもしれないが、諦めようとするだろうし、何なら人のものになった途端にすとんと気持ちが無くなるようなタイプかもしれない。それで新しい恋に落ちてくれたら万々歳だ。出来ればおれとは全く正反対の、ペルの為を思って自分を犠牲に出来るような、愛情深くて優しい女性がいい。きっとお互いを大事にして生きていける。

全てのことを考えれば、本当はもっと若い頃に身を固めてしまえば良かったのだろう。だがつい最近までとにかくアラバスタから逃げ出すことしか考えていなかったおれは、誰かを好きになるなんて余裕はなかったしアラバスタの次男という立場も理解していたからこそアラバスタの次男としてどこかの国と友好を繋ぐために結婚するなんて恐ろしくて出来やしなかった。結婚した妻に「アラバスタを救わなくては」と後押しされることも、「あなたの家族は雨を奪うなんてことをしていたの?」と軽蔑されることも怖かったのだ。たくさん勧められていたお見合いを避け続けて独り身でいた結果が「ダンスパウダーを利用して王座を乗っ取ろうとしているのでは」という疑いをさらに強めていた可能性もあるのでどっちにしろ馬鹿な考えではあるが、その時のおれはこの世界の人間と深く縁を結ぶことをどうしても避けたかったのだから仕方ない。

けれど今なら、結婚をしてもいいかなと思える。
少しずつアラバスタも落ち着いてきて、おれの王位継承権放棄を受け入れたビビも改めて将来この国を統べる王女となるため勉学に励んでいる最中だ。近い未来にまた彼女に試練が訪れることも知っているのだから、せめて周囲の国と友好を深めていくことくらいはしておかないとまた何もしなかったと後悔をすることになる。せめて慕ってくれる分だけの努力はしたい。そう思えるようになったのは、人の感情を読めるようになったからだ。愛してくれる分だけ何かを返したい。その人のためになることをしたい。ビビにとっても、アラバスタにとっても、そしてこんなおじさんなんかを好きになってしまったペルにも、この先の人生に些細なことでもいいから役に立つことがしたい。おれの結婚でそれを果たせるなら、誰とだって縁を結ぼう。


    と、短絡的ではあるが誰もに益をもたらす最高の計画だと思っていた、のだが。


「マムシくん、結婚するの!?どうして!?」「まさかアラバスタを捨てるおつもりで!?」「嘘でしょう!まだ壊れた運河の修復計画が途中じゃないですか!」「私達がいけなかったんです!!わかってます!!疑ってしまい本当に申し訳ありませんでした!!」「至らぬところは直しますのではっきり言ってください!」「私はマムシ様を追い出そうなんて思ってませんよ!誰です誰にまた嫌味を言われたんです!?」「結婚はお嫌だったはずでは!?うちの娘ではダメなんですか!」「相手は誰です!ちゃんとした方なのでしょうね!?」「いやああマムシ様誰のものにもならないでーー!!」

ビビの悲鳴のような驚声を聞きつけてやってきた臣下を皮切りに、上から下へと瞬く間に広まっていつの間にか執務室がぎゅうぎゅうになるほどの人数が駆け付けて思い思いの思いの丈をぶちまけている。王位継承権も捨てたおじさんの結婚なんて、今まで散々避け続けてきたぶん多少驚かれはしてもせいぜい相手を検分されるくらいかなと思っていたのだが、ちょっと想像以上に大事だな?どうしようか、この騒ぎ。


prev / next


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -