「やあお兄さん、一人?乗ってかない?」
軽薄な台詞で呼び止められ、顔をそちらに向けたペルは息を呑んだ。ラクダに乗ったその男は、傷だらけで、片腕がなく、在りし日に見ていた姿より随分と痩せている。それでもそれは確かに、ずっとペルが求めていた男だった。あの混乱極める内乱の中で姿を見かけた時から一層、ずっとずっと、求めていた姿だった。
「ごめんな、ありがとう、お前がいてくれて良かった…うーん、言いたいことがたくさんありすぎて、まとまらないな」
言いたいことがたくさんあるのは、ペルとて同じことだ。けれど何一つ声にならない。口を塞がれたかのように言葉が喉に貼り付いて、ぱくぱくと唇を震わせるペルにその人は手を差し伸べた。
「…黙って出て行ったこと、許してくれる?」
ぶわりと涙が溢れる。許して欲しいのは、ペルの方だ。彼の警告に耳を貸さなかった。力になれなかった。守れるくらいに強くなりたかったのに、結局はこんなにも傷だらけにさせてしまった。
それでも、帰ってきてくれて嬉しい。声をかけてくれて嬉しい。一人で出て行ったことを、悪いと思ってくれて、嬉しい。
差し伸べられた手を逃がさないように強く握り締め、「ね、許して」とねだられて、ようやくペルは声を出すことができた。
「…もう、二度と、おいていかないでくれるなら」
「うん、わかった、いーよ」
軽々しく了承する返事が、いつかとは違い嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。笑っている。マムシが笑って、そこにいる。ペルだけを見ている。それだけで嬉しくて、もう上手く頭が働かない。
「帰ろう、おいで」と囁いてペルを抱き上げようと下がったマムシの頭を、ペルはきつくきつく抱きしめた。はぐれた親と再会できた迷子のこどものように、ぐずぐずと泣きじゃくりながら。