ルッチ長編 | ナノ


ブルーノとルッチが広間に入ると、ちょうどフクロウとジャブラが大騒ぎをしている真っ最中だった。チャパパ、チャパパと楽しそうに羽ばたく様子を見るに、またフクロウがジャブラの弱みでも握って言い触らしているらしい。怒り喚くジャブラの嵐脚を避けながらブルーノの近くに降り立ったフクロウは、チャックの開いた大きな口を勿体振りながらも躊躇いなく動かした。

「チャパパ、見てしまったー」
「何をだ?」
「ジャブラが飼い犬になるところだ!」
「てめェフクロウ!!」
「飼い犬?」

確かに罵倒や揶揄で犬だなんだとジャブラを形容することはあるが、実際に犬、まして飼い犬とは程遠い獰猛な性格をしているのはCP9メンバーの全員が承知している事実である。どういうことだと首を傾げるブルーノを、フクロウごと仕留めるつもりなのかジャブラが鉄塊のまま飛び込んできた。巻き込まれては敵わないとブルーノは身をかわして距離を取る。一緒に部屋へ入ってきたルッチはといえば、興味もないのか既に一人掛け用のソファーでハットリと共に酒を呷っていた。ジャブラはフクロウに狙いを定めたようだし、自分もルッチに倣った方が良さそうだとブルーノはソファーに腰掛ける。おしゃべりなフクロウのことだ、わざわざ耳を澄ませていなくてもぺらぺらと喋ってくれることだろう。

「チャパパ、ジャブラは庭師のイツキの飼い犬になってたんだぞー」
「てめっ!誰があんな根暗の飼い犬になるか!!」
「チャパパパパ!」
「…イツキ?」

ブルーノの記憶が確かならば、ジャブラの部屋を中心としてエニエス・ロビー全体の草木を手入れしている男の名前だ。あれの人間嫌いは有名な話で、誰も彼と会話らしき会話をしたことがないと聞く。ブルーノ自身幾度か見掛けたことはあるが、纏うオーラが他人の干渉を拒否しているように見えるのが印象的だった。ジャブラとて部屋の手入れを任せているようだが、ジャブラの口から彼のことを聞くのは彼が雇われたばかりの頃、しかも態度が悪いとか暗い雰囲気が気持ち悪いとか、悪口ばかりだったはずだ。一ヶ月も経てば諦めたのか何も言わなくなったが、フクロウによればどうやら二人の間に何かあったらしい。ブルーノが興味を持ったことに気付いたフクロウは、楽しそうに声を上げた。

「ジャブラがイツキに撫でられているのを見てしまったー!イツキはにこにこしていたし、ジャブラもうっとりしてたぞ!まさに飼い主と犬だった!」
「あいつが撫でさせて下さいお願いしますっつーからマッサージついでに撫でさせてやったんだよ!!」
「チャパパ!!」
「なんだあいつ、犬が好きなのか?」

ブルーノが呟くのと同時に、部屋の空気がひやりと下がった。原因は左斜め前。ルッチである。
ジャブラとフクロウは気付いていないようだが、どうやら騒がしさに耐え切れなくなったらしい。ゆらりと立ち上がるルッチにブルーノは、程々にな、と声を掛けようとした。しかし口をつぐんだ。

ルッチは普段から決して愛想のいい男ではない。だが人間を疎ましく思っているのかといえばそうでもなく、仲間内に本気で怒ることもあまりないとブルーノは知っている。売られた喧嘩は買うが、ただのおふざけに全力の制裁をくわえることもない。

だが、これは。

かつん、音を鳴らして一歩進んだ先はフクロウよりもジャブラを目指しているようだった。ジャブラもただならぬ雰囲気に気付いたようだ。フクロウは黙る。空気が張り詰める。

    どうやらルッチは、相当機嫌が悪いらしい。

ハットリが不安げに一鳴きするのと、部屋に亀裂が入ったのは同時のことだった。


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