獣の前足で扉を押し開くと、視界に飛び込んできたのは一人の男の背中だった。脚立の頂上に腰を下ろして、大きな木に鋏を入れている。ぱちん、ぱちんと音を鳴らして切られていく枝や葉が地面へ落ちる音に紛れて、足をそちらへ進めていく獣の気配に彼は気付かない。呼び掛ける代わりに唸り声を上げると、枝葉しか見ていなかった瞳がようやく視線を落として獣の姿をみとめた。
「
ミケ、と呼ばれた獣は不満げにもうひとつ唸り声を上げたが、脚立からひらりと降りてきて喉元を撫でる手には文句が付けられない。思わず鳴ってしまう喉に彼は目を細めて笑うと、「今日もいい子だね」と鼻先にキスを落とした。
まるで人懐こい野良猫を可愛がるような仕種を、まともな人間が見たら卒倒することだろう。
獣の正体はレオパルド。全長は成人男性以上にもなる、大型の肉食獣である。