とある庭師の話をしよう。彼は昔から、それこそ物心がついた時から、人間に優しく出来なかった。嫌ってはいないのだが、どうやって付き合ったらいいのかわからなくて、また付き合うメリットを見出だせなくなってからは付き合おうとも思わなかった。彼の世界は植物と動物で構成されている。広いようで狭いその世界を、彼はこよなく愛していた。手塩にかけて育てた花に笑顔を向け、懐く鳥獣に情を注いだ。それだけで彼は幸せだった。人を愛せなくても、恋を知らなくても。誰かに愛されなくたって、彼は満足していた。
しかし彼は、人が動物に化けれることを知った。愛した豹が人の言葉を話し、人の姿に戻るところを見てしまった。騙されていた彼は、驚きはしたが、驚いただけだった。真実を知っても、豹に向ける情に変化はなかった。豹なのだと思うと、豹の元である人間も愛しく思えた。人間に無関心だった彼が、少しだけ人間に意地悪もしたくなった。歪んだ感情ではあるが、これは多大なる進歩である。彼は気付いた。なるほど、これが恋か、と。
彼に友人がいればそれは違うとすぐさま否定してくれたのだろうが、生憎と彼に友人はいなかったので、彼は人間に対するその感情を恋とし、そして青春時代と呼ばれる年頃をとうに過ぎてようやくの初恋を体験した。ようするにイツキは愛しているのだ。ミケと呼ばれる豹ではない。CP9の殺戮兵器である、ロブ・ルッチを。