「
知らない方がおかしいと思う。
しれっと返された言葉に、ルッチのこめかみが知らず知らず引き攣る。
確かにそうだ。知らない方がおかしかった。ルッチが悪魔の実の能力者であることも、その能力の正体も、何も隠されているわけではない。けれど知っていたのに、知らないふりをすることだっておかしいはずだ。
何故だと問う視線を向けたルッチに、イツキは柔らかく目を細めた。この仕種をルッチは知っている。ミケをかわいいという時の、イツキの癖だ。
「言えば、君が離れていくと思って」
「…なんだと」
「『ミケ』の君は可愛かった」
ミケを思い出しているのだろうか。小さく笑ったイツキの顔を見て、ハットリやジャブラが頭に浮かぶ。無類の動物好きであるこの男は、ハットリやジャブラだけではない、番犬部隊の犬や迷い込んできた鳥にだって優しい。「動物ならなんだっていいのか」。何故だか腹の奥が重く、喉が掠れそうになりながら言った言葉に、イツキは緩く首を振った。
「ミケが一番、かわいい」
「…あの駄犬にも、同じことを言っているんだろう」
冷ややかな声でルッチがそう言うと、イツキは一瞬目を丸くした後、見たこともないような顔で笑った。
意味がわからなくて反応が遅れたルッチの首筋に、一歩踏み出してきたイツキの手がするりと絡んで引き寄せられる。
にやり。イツキは意地の悪い、それこそ悪人のような顔をしていた。囁くような声で彼は言う。
「人間でかわいいと思うのは、君だけだよ。
鼻先に温かな体温。いつものようにキスをされたのだと気付くのは、やはり一瞬遅れた後だった。