ジャブラは憤っていた。思わず獣化してしまうほどに腹を立てている。
原因はもはやジャブラにとっての疫病神とも言うべきあの男だ。庭師のイツキ。あれは本当に、ろくでもない。
ジャブラがイツキの飼い犬
「フラレたんか」
「フラレたのね」
「フラレたとあっちゃァ〜ア!男の名前に傷〜〜つくぜ〜〜よよい!」
「チャパパパパパ!」
「うっせーてめェら!誰がフラレたってんだ誰が!!」
「違うのか?」
「ちげェよばか!」
どこをどう間違えたらそうなるのか、ジャブラとイツキが恋仲であるという噂まで立った挙げ句、イツキにフラレたという結論まで今この場で出て来てしまった。
任務もなくて暇なCP9のメンバーは、ジャブラの恋路になど大して興味もないくせに普段決して見せないようなコンビネーションで「フラレた」を連呼する。ありえないことだ。確かに二年間も関われば赤の他人に比べて情が沸くのは当たり前だが、殺せと言われればなんの躊躇いなく殺せるし、何よりジャブラには密かに想う人がいる。彼女にまで知れたらと思うと気が気でない。
いや、もはや知られていない方がおかしいのだ。娯楽の少ないエニエス・ロビーで、CP9ほどの地位を持った人間のゴシップなど格好のネタである。
「あいつ殺してやる!それでくだらねェ噂なんざ終いだ!」
「今このタイミングで殺したら、別の噂が立つんじゃないかのう」
「恋人の心変わりを許せず、自分以外を見るくらいなら一思いに…。いかにも広まりそうなニュースね」
「やめろ気色悪ィ!どうしろってんだチクショー!!」
ジャブラが怒りで頭の血管を切りそうになっても、暇人どもは煽り立てるか笑うばかり。もはやどうにも動けなくなったジャブラは、せめてこれ以上馬鹿にされてたまるかと部屋を出て、苛立ちのままに吠えた。
とりあえず、そう、とりあえずは、だ。噂の片割れであるくせにジャブラと違って何も気にしていない様子のイツキに少し当たらなくては気が済まない。なにせ全ての原因はあれなのだ。
オオン、ウオオン。けたましく怒りの雄叫びを上げ、ジャブラは鼻を頼りにイツキの元へと駆け出した。