SSリクエスト祭4 | ナノ


殺人現場さながら、床に倒れこむ同僚の姿を発見しスモーカーは跨いで避けた。
ここはマリンフォード、海軍本部からほど近い海兵宿舎の一室で、床と仲良くしている男はスモーカーのルームメイトである。世界で一番治安のいいこの地で強盗を行うような馬鹿がいるわけもなく、さらに言えばこの光景は何度も目にしてきているため今更驚くようなことでもない。遠征から帰ってきたばかりの体を清めるため、そのままシャワー室へ直行したスモーカーは薄情なわけではないのだ。ただ、準備が必要だというだけで。



※※※


「はっ」

びくんと震えて目を覚ましたナマエは、目の前に広がる天井が自室のものであることを確認してホッと肩から力を抜いた。部屋についた途端、力尽きて倒れ込んだまでは記憶があるのだ。ただその前が途切れとぎれになっているので、覚えてはいないがまた何徹かしたのだろう。一度スイッチが入ると、限界まで働き続ける悪癖というのは若い頃から続くものだが、何度繰り返しても慣れるものではない。倒れればもちろんぶつけた部分が負傷するし、床で寝れば体が固くなる。ベッドできちんと眠れば痛むこともないししっかりとした休息がとれることは理解しているのだが、どうしてもベッドを見た瞬間に気が抜けてしまうのだ。
今回も肩や腰が痛くなっているだろうかとうんざりしながら上半身を起こしたが、ナマエはそこが硬くて冷たい床の上ではなく柔らかくて暖かいベッドの中だということに気がついた。

「…あえ?」

思わず間抜けな声を出したナマエは、状況がしっかりと把握出来ない程度には寝ぼけている。迷子の子供のようにきょろきょろと視線を動かして、ようやく自分の隣にもうひとりベッドに埋まっていることに気がついた。

「起きたか」

上半身裸の姿で、ナマエに寄り添っているのは同室のスモーカーだ。顔を合わせるたびにいつも厳しい口調でなじられているが、部屋に入ればその口が余計なことを話さないことを知っている。シャワーを浴びた様子のスモーカーと、自分が今いる場所、そして窮屈なスーツが脱がされている状況からスモーカーに世話を焼かれたことを理解したナマエは、「うん」と頷きながら再び寝転んでスモーカーの逞しい胸筋に鼻を埋めた。葉巻と石鹸の香り。硬すぎないしなやかな筋肉。そして柔らかいベッド。最高の安眠が約束されている場で、眠らないというのは冒涜だろう。スモーカーを抱き寄せ鼻先を摺り寄せてしっくりくる場所を探し、そのまま心地いいまどろみに身をゆだねた。きもちいい。スモーカーだいすき。いつもありがとう。
今日は眠すぎてそれどころではないが、疲れすぎて勃起が治まらない時にはそこまで静めてくれるのだから、そのうちちゃんとした礼でもしなくてはならないと思うのだが、この部屋でナマエはいつもぐずぐずになってまともな人間の姿をしていないし、外に出ればスモーカーはいつもの辛辣なスモーカーだ。
どうしようかな、どうすればスモーカーは喜んでくれるかな。そう思っているうちにぐっすりと寝込んでしまったナマエは、無防備な寝顔をスモーカーがどんな表情で見ていたかなど知るよしもないのだ。


※※※


ナマエは馬鹿がつくほど真面目で休息というものを知らない男だ。一度仕事のスイッチが入れば己の限界まで働き続け、倒れるまでそれは止まらない。自分の管理くらいしっかりしとけと昔からスモーカーは叱りつけてきたのだが、自分の正義のために突き進んでいくナマエの姿が嫌いなわけでなし、倒れ込んだ時には回収してやるくらいの情はあった。愚直で曲がることを知らず、自分に厳しいくせに他人には甘い。そんな男のことを、スモーカーは気に入っていたのだ。

スモーカーなりに世話を焼いてやっているうちにこんな風に同衾する仲になってしまったが、スモーカーを抱き込んですやすや眠る男の顔が普段とはかけ離れて緩み無防備になっている様を見られるのが自分だけだと思えば気分は悪くない。
あとは、スモーカーがここまでするのは単なる親切ではないとナマエが気付くのを待つだけだが、仕事以外ではアホなほど鈍いこの男が察するのはまだまだ時間がかかるだろう。それもまた悪くないと、気の抜けた寝顔を見てスモーカーは笑った。

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