SSリクエスト祭4 | ナノ


「ああもう、鬱陶しい」

苛立ってつい口から漏れてしまった言葉に、マルコが凍りついた。いや、マルコだけじゃない。周りでおれ達を呆れた顔して見守ってた兄弟達も、滅多に怒らないおれが明らかな拒絶の言葉を吐いたことに驚いて目を丸くしている。
そんな周りのことなど気にする余裕がないのか、おれの腕を掴んだままマルコの顔はみるみるうちに青ざめていって、ぎゅっと顔を顰めた。怒っているようにも見える顔は、力を入れておかないと泣いてしまいそうなんだろう。おれだって泣きそうだ。どうして好き合っているはずなのに、そしてこんなにも好意を伝えているはずなのに、上手くいかないのかわからない。おれはただ、マルコがそんなにも躍起になっておれを捕まえようとする必要なんてないんだと教えたいだけなのに。

「おれは一番隊で、あんたの補佐だ。確かに初めは補佐なんて無理だって言ったけど、嫌々やってるわけじゃない。言うことだって聞いてる。力になりたいと思ってる。それはマルコのことが好きだからだ。それじゃダメなの?どうしてそんなにおれを押さえつけようとするの。おれは反抗なんて一回もしてないのに、なにが信用出来ないの」
「…信用、なんて、おれは…」

ついさっきまで口煩く、頑ななまでにおれに指図してきたマルコが、俯いて小さくもごもごと歯切れ悪い言葉で反論してくる。信用してないなんてことはないと言いたいのだろうが、信用してないだろう。こんなに好きだと言っているし、マルコのためを思っていつも行動しているのに、事あるごとに「遠ざけようとするな」とか「わかってないのに適当なことを言うな」とか、わかってないのはマルコだろう。今だって「腕いたい。逃げないから離して」とお願いしたって、腕は離してくれたものの今度は服を掴まれた。逃げないって言ってるのに、どうしてこんなにおれは信用がないんだろう。泣きそうになって顔を歪めると、場違いなほど明るい笑顔でサッチが割り込んできた。「まあまあ落ち着けって!ナマエもそんな冷たいこと言ってやるなよ!」なんて、ほらまた、おればっかりが悪者だ。

「サッチには関係ない。これはおれとマルコの話だ」
「そんな言い方ねェだろ兄弟!マルコはお前が好きで好きで仕方ねェんだよ〜」
「こんだけしつこくされたら分かるよ、おれだって好きだよ。好き合ってるのになんでこんな責められなくちゃいけないんだ」
「いや、うーんとな、そういう好きじゃあ無くてよォ…」

そういう『好き』だよ。なんでこんなストレートに言っててわからないんだ。マルコはもう諦めたみたいに項垂れているし、そのくせおれの服から手を離さないせいでおればっかりがサッチだけじゃなくて他の兄弟からも非難を受けている。恋だの愛だのいちいち子供に説明するみたいに区別をつけられなくてもわかってるし、わかってるって言ってるのにみんなおれを物分かりの悪い子供みたいな目で見てくるのが辛い。
それもこれも、マルコがおれの気持ちを決めつけて受け入れようとしてくれないのがいけないんだ。おれは何度も好きだって言って、いつもマルコのためを思って行動していたのに。

「…もういい、うるさい。マルコなんて嫌い」

ぼろっとこぼれた言葉にまたみんなが凍りついたのは、言葉だけじゃなくておれの目から涙もぼろっとこぼれたからだ。
周りが急に静まり返ったのとおれの言葉に顔を上げたマルコは、おれの顔を見て目を丸くしている。その表情が急に憎たらしくて、今までの我慢を全部ぶつけてやりたくなってしまったおれは、服を掴んでいるマルコの手を振り払って顔面を両手で鷲掴み、みんなの目の前でその厚みのある唇にぶちゅっとキスをしてやった。間抜けに開いていた口の中に舌を入れて舐め回して、最後に下唇を噛むと固まっていたマルコの肩がびくりと大きく震える。顔を離せば、みるみる赤くなっていくのが見えた。かわいい顔。本当はちゃんと、付き合ってから二人きりでこういうことをしたかった。

「おれも好きだって、言ってんのに」

わかってくれないならもういらない。マルコなんて嫌い。マルコばっかり味方するみんなも大っ嫌い。

唖然とするマルコを突き飛ばして、おれはその場を逃げ出した。恋をするだけでこんなにも辛いなら、おれはもう絶対に誰のことも好きにはならないだろう。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -