ペル長編 | ナノ


かわいさに感謝しなよ  




ビビは『マムシくん』が大好きだ。国王である父親の弟で、父親とはあまり似ていない、とても優しい叔父である。

「ビビ、ビビ、久しぶりだね、こっちへおいで。一緒に遊ぼう」

いつもアラバスタの外にいて、あまり宮殿には帰ってきてくれないけれど、会えばいつでも優しい笑顔と甘い声色でビビを呼び寄せて、たくさんのお土産をくれる。
見慣れない模様の描かれたスカーフ、角度によって反射する光の色が変わる鉱石、どこかの国の愛らしい民族衣装、不思議な味のするお菓子。たくさんたくさん、外から持って帰ってきた宝物をビビにくれる。
けれどビビが一等好きなのは、マムシが柔らかい声で話してくれる外の国のお話だった。空に浮かぶ島、船をたくさん作る街、夜の来ない島、島をまるごと乗せているような大きい船。おとぎ話みたいに現実味のないそれが、間近で見てきたかのように語られる臨場感といったら、瞬く間にビビを夢中にさせてしまう。

「マムシくん、ねェ、お話をして」
「いいよ。今日は何を話そうか。女の子しかいない国の話?それとも、海底にある人魚の国の話?ああ、おもちゃが人間と一緒に暮らす国なんてのもあるんだよ」
「全部!全部お話しして!」

長い不在を終えて帰ってきたばかりの彼の膝の上へよじ登り冒険譚をねだっても、「疲れているのだから休ませてあげなさい」というのは父やその側近ばかりだ。マムシは一度だってビビを拒絶しない。「美味しいお菓子を買ってきたんだ、食べながらお話ししよう」とビビを抱えて部屋に戻り、ビビがはしゃぎ疲れて眠くなるまでずっとお話をしてくれる。
大好きな叔父さん。優しい叔父さん。みんなに咎められるビビのお転婆も、「勇敢な王女様」と言って褒めてくれるから、ビビは傷をこしらえることなんてちっとも怖くない。

「私もいつか、マムシくんみたいな冒険をしたいの」
「そうだね、きっと、するときが来るよ」

王宮の誰よりもビビを優先し、肯定し、甘やかしてくれる叔父さん。宮殿に滞在している間はずっとくっついて回るビビの姿をじっと見ている人がいることなど、幼いビビには知る由もなかった。


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