SSリクエスト祭3 | ナノ


「お前は一生、おれを見ていてくれなきゃ嫌だよ」

はっきりと言葉に出した独占欲は、好意を寄せている相手からのものだとしたらおそらく胸がときめいたことだろう。
しかしサカズキは生憎そのような甘酸っぱい感情など生まれてこのかた抱いたことはないし、なにより相手はナマエである。日々サカズキに嫌がらせを施し、怒らせて命をかけた攻防でスリルを味わうことを生きがいにしているナマエである。
サカズキは汚物を見たかのような顔で「貴様なぞ視界に入れたくもないわ」と吐き捨てると、視線を奪うようにサカズキの頬をがっちりと掴んでいたナマエの両手をマグマの腕で払い除けた。その時にとばっちりを受けて焼け焦げてしまった書類の一枚が、ナマエがこんな気味の悪いことを言い出したそもそもの原因である。

近頃、熱心に海賊討伐に励む新兵がいると聞いたのはもはや1ヶ月近く前のことだった。実力は上々、訓練も真面目に行い、なにより過去に家族を海賊に殺されたという彼は、周囲を押しのけてでも悪を潰す気迫があったのだ。たまたま目についたそれを気に入って、目をかけてやり、そして正式にサカズキの部隊に引き入れようとしたのが今日の話。
つい先ほど遠征から戻ってきたばかりのナマエはどこからそれを聞きつけてきたのか、サカズキの執務室に飛び込んでくるなり「サカちゃーん!若いツバメ囲おうとしてるってほんと!?」と喧嘩をふっかけてきたのだ。まっとうに相手をすれば喜ぶだけなので無視をしていたが、人事異動のために作成していた書類を奪われてはそうもいかない。「おい」とドスの効いた、それこそ気が弱いものなら卒倒してしまうほど怒りと憎しみを込めた批難の声を上げれば、ナマエは机の上に乗ってまじまじと書類を眺めたあと、それを無造作に放ってサカズキの両頬を両手でがっしりと掴んだのだ。じっと見つめてくる目はそれ自体が光源かのようにギラギラと輝いていて、怒っているのかとすら思うほど苛烈な光を宿していた。なんだ、とも、さわるな、とも言葉に出来なかったサカズキに、ナマエは強い感情を灯す瞳と裏腹にことさら優しい声色で告げたのだ。「お前が誰に興味を示してもいいけれど、お前は一生、おれを見ていてくれなきゃ嫌だよ」と。

そして乱闘にいたる。



「…それってェ〜、ヤキモチってやつじゃあないのかァい〜?」

一悶着を経てしっちゃかめっちゃかに荒れた執務室を訪ねてきたのはボルサリーノだ。ちゃっかりとナマエが去っていったあとに顔を出したのは、面倒事に巻き込まれたくないからだろう。「相も変わらずサカズキのことが大好きなんだねェ〜」と他人事丸出しの口調はサカズキの神経を逆撫で、ナマエの言葉がいやに頭の中を反響する。一生おれを見ていて、なんて、あの気が狂れた男には到底似合わない愛の言葉。その正体は単なる遊び道具への執着だ。誰かに取られそうになったから、惜しくなって慌てただけのことに過ぎない。最近は遠征ばかりで会いにもこないくせに。海賊を相手にして楽しそうに毎日を過ごしているくせに。なにがヤキモチだ。そんな自分勝手な感情は不愉快なばかりで、認めてたまるものか。

消し炭ばかりになった執務室の中で、一番に灰と化した書類はそのまま書き直されることもなく、異動の話はなかったものとして扱われることになった。

「こがァなもんでしつこく絡まれたらかなわん」

あの男の釣り餌になるようなものは持っておきたくないのだと冷たく吐き捨てたサカズキに、ボルサリーノは頷きながら密かに溜息を吐いた。それは結局、ナマエのことばかり考えてやっているハメになっているのではないかと。

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