SSリクエスト祭3 | ナノ


イッショウさんがおれの顔を触ってくるのは、おれが怒っている時である。おれの顔は一般的に見ると強面と言われる方で、自分ではそんなつもりはなくとも少し怒ったような素振りをするだけで「殺されるかと思った」と言われるくらいに迫力が出るらしい。そんな顔付きだから「喧嘩を売ってるのか」と絡まれたことや、「なんだその反抗的な目は」と上官に殴られたことも数え切れない程あるのでおれは自分の顔が好きではなかったが、イッショウさんの補佐につくことになって自分が怖い顔で良かったと思うのだ。
なにせ彼は大将という大層な肩書きのくせに、ふらりと単独行動をしては悪人に絡まれていたり迷子になって路地裏で佇んでいたりするのだから、おれは心配でついつい口うるさくなってしまう。彼に怖がってほしいわけではないけれど、こんなに怒ってるんですよ、と伝えるのに適切なのは言葉と表情だ。言葉はさておき、表情を伝えようにも彼は盲目だ。お願いですから自重してください、という願いをこめて彼の手をとり、きつく歪めた顔に初めて触れさせたときイッショウさんは驚いていたけれど、「あんたは、こんな顔をしてたんですねェ」とぺたぺた触って、それからしばらくはどこかへ行くときにはおれをお供にしてくれるようになったので、効き目はあったのだと思う。怖がった素振りはないものの、おれがどれだけ怒っているかは伝わったのだから、おれの人並み外れた迫力のある顔も悪くないものだと生まれて初めてそう思えた。

「イッショウさん、ねェ、わかってます?おれ、すっごく怒ってますよ」

しかし、イッショウさんが自由な行動を自重したのは少しの間だけだった。その後はしばらくすればまた同じようにふらりとどこかへ行っては悪人に絡まれていたりするのだから、その度におれは必死に探し回って怒ってお説教する羽目になっている。

「へえ、すいやせんねェ、あんたのこわァい顔が見えねェと、どうにも気が緩んじまうみてェでして」
「頭の中に叩き込んどいてください!もおこんな顔ですよ!いつもより怖いですよ!!」
「どれどれ」

ぺたぺたとイッショウさんの指がおれの顔を這い回って、怒りに歪んだ顔のパーツひとつひとつを丁寧になぞっていく。山脈のように深く刻んだ眉間の皺、きつく吊り上がった目尻、それからへの字に曲がった口の端。「こりゃあおっかねェ」とわざとらしく大げさに驚くイッショウさんは絶対に怖がっていないが、どれだけおれが怒っているかは伝わったことだろう。

「心配なんだって、何度も言ってるじゃないですか」

おれより立場も実力も上の大将に向かって向けるにはあまりにも身の程知らずの感情だとは思うが、無防備な姿で悪人に絡まれていたり、まるで世界から隔離されたかのように一人で路地裏に佇んでいる姿を見るとどうしても過保護になってしまう。メイナードを始め他の海兵はおれを「心配性だな」といって呆れてもいるようだが、怒った顔を向けると黙り込むので最近は何も言わなくなってきた。まだぺたぺたとおれの顔を触るイッショウさんを見てなにか言いたそうにはしているものの、どうせおれに対して呆れているような言葉ばかりなのだから無視をしたっていいだろう。

「おれがどれだけ怒ってるかわかりましたか?」
「へェ、もうちょっと失礼しやす」
「わかってくれたら、一緒に行動しましょうね…どこにでも着いていきますから」
「そりゃありがてェ」

本当はもう怒っていないけれど、おれの顔を触り続けるイッショウさんのためにぎゅっと力を入れて怖い顔を作る。いっそのこと任務の時は手をつないでいた方がいいのかな、と思いながら、おれはイッショウさんの使い込まれた太い指を撫でた。どこかの誰かが「おい誰かあのいちゃいちゃしてんの止めさせてこい」と言っているのにも、今はまだ気付かないまま。

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