SSリクエスト祭3 | ナノ


「また明日ね」とナマエは言う。彼のその言葉がボルサリーノは好きだった。

彼はボルサリーノと同期の、海兵のくせにあまり荒事が得意でない優男ではあったが、『人の死期が視える』という特殊な能力ゆえに重宝されて中将にまでのし上がった男だ。さして強くもない男が、それでもあからさまにやっかみを受けることが少なかったのは、死というものが全ての生き物に対して大きな恐怖をはらんでいるからだろう。
強くないくせに、と正々堂々文句を言ってきた輩もいたが、すぐにいなくなってしまった。しつこく絡んでいたという輩にナマエが告げた「お前明日死ぬよ」という死刑宣告にも似た言葉は、真実だったのか脅しだったのかはわからない。けれどそれはあまりにも恐ろしい呪いのようだった。仮令『視た』ものをそのまま伝えただけのことだとしても、唐突に明日死ぬと言われて、しかもそれが避けようもない運命だというのなら、正体の見えない恐ろしさに気が狂って自害してしまっても仕方のない話だ。そんなことがあってからは、表立って彼にケチをつける人間はいなくなった。実質、彼が殺したようなものではないかと、誰もがそう思ったのだろう。

それを聞いて、面白そうだなとボルサリーノが声をかけたことから二人の交友は始まった。噂に聞いていた死神のような男とはほど遠く、彼は本来寡黙で思慮深く思いやりのある男だ。しかし、それは懐にいれた人間に対してだけではあるのだが。

人の死が視えるからだろうか。彼はあまり親しい人間を作りたがらず、そしてそれでも親しくなってしまった人間の死には過剰なほどの恐れを抱いていた。きっとボルサリーノが殺しても死なないような、化物じみた力を持っていなければ早々に彼には避けられていただろう。

「お前の傍は安心するよ」と言わせた時の達成感を、ナマエは知らない。散々好意も厚意も示して、ようやく「好きだ」と彼に言わせた時の満ち足りた気持ちも。
人の死を見透かす冷たい目つきがボルサリーノの前では無防備に緩むのが好きで、一緒に生きていくのが当たり前のように「また明日ね」と言って、いとけない仕草で手を振ってお互い帰路につくのも、あるいは同じベッドで眠りにつくのも、ボルサリーノは好きだった。


「また明日ねェ〜」

彼の口癖が移ってしまったかのように、ボルサリーノは手を振って彼の出港を見送った。海軍本部にほど近い、小さな島に寄港した海賊の討伐任務へと向かうナマエの見送りのためだ。遅くとも明日には帰ってくるはずの、簡単な任務だった。
『ああ、また明日ね』と同じく返してくるはずの彼は、タラップを踏んで船に乗り込みながら笑うだけだった。その顔はいつもと変わらない、ボルサリーノを見て緩む安心しきった顔のはずなのに、彼からいつもと変わらない言葉は帰ってこなかった。その代わりに、いつもと変わらないいとけない仕草で手を振って、何気ない口調で告げたのだ。


「ボルサリーノ、おれ、今日死ぬんだ」

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