SSリクエスト祭3 | ナノ


好かれているな、という自覚はある。用がないのにいつも傍に居たがったり、誰かと談笑していれば不機嫌になったり、他にもたくさん、マルコがおれに好意を寄せていると自覚出来るだけの要素はいくらでもあった。

薄々勘付いていた好意を確信したのはマルコが一番隊の隊長に就任したとき。そして同時におれが三番隊から一番隊へ異動になったときだ。
「ナマエが補佐につくなら」と隊長就任を了承したマルコは、別に自分に自信がないから補佐を要求したわけではない。この機におれを自分の手元に囲ってしまおうと企んで提案しただけだろう。学もなく、自由気ままに行動したいタイプのおれが補佐なんて役割に向いているはずもないのに、誰もが異論を唱えなかったのは『マルコの隊長就任のご祝儀』としておれを差し出したようなものだからだ。
マルコがおれに執着しているというのは、おれ以外の全員が知っているということになっているし、マルコ自身も牽制のつもりなのか隠そうとすらしていない。とうの本人を抜きにして決められた異動に対して「補佐なんて向いてねーよ」と首を振ったおれを、マルコは「おれの下じゃ不満かよい」とまるで泥棒を見るような目で睨んできた。会話の成り立たない相手に、そうじゃなくて仕事を任されても困るんだと伝えようにもきっとマルコはイエス以外の答えは受け入れないのだと察してしまったおれは、「もういいよ、好きにしたら」と了承したのだ。別におれだってお前の傍にいることに異論はないんだから、というつもりでそう言ったのに、マルコは傷付いたような顔で「ああ、好きにするよい」と小さく呟いたので、おそらくおれの真意は伝わっていない。

マルコはおれが好きだ。兄弟とか家族とかそういう愛情ではなく、恋をしているという意味で。
もっと具体的に言えば誰にも渡したくないしおれにも好きになってもらいたいしあわよくば恋人の座を奪って束縛したいというほど執着しているのも知っている。知ってはいるのだが、なぜかマルコを含めたクルー全員がそのことを知っているのに、おれだけは気付いていないということになっている。
おれだってマルコが好きだし、どんな形であれ好意を向けられるのは嬉しい。オヤジと同じくらいマルコを特別扱いしているというのに、周りからは「そんな冷たくすんなよ」や「早く気付いてやれよ」といった類の批難を受けるばかりだ。理解が出来ない。
おれだってマルコが好きだよ、ときちんと口に出していったこともあった。なのに、そういう意味じゃねェよと感情まで否定されるのだから本当に可哀想なのはおれの方だと思う。おれはマルコが好きだ。兄弟とか家族とかそういう愛情ではなく、恋をしているという意味で。おれたちはきっと同じ感情を抱いているはずなのに、どうして上手くいかないのか。おれにはちっとも理解が出来ない。


「…どこ行くんだよい」

新しい島に上陸して、町を散策しようと船を降りたおれの腕を掴んで引き止めたのはいつものことながらマルコだった。「どこって、買い物」。少し日用品でも買い足そうと、ただそれだけのことなのにマルコは脱走兵を咎めるような目で見てくるのだから、いつもおれはマルコに睨まれると自分が罪人になったかのようで落ち着かない。

「おれも行く」
「日用品だよ」
「おれも行く」
「お前この間買い足してたろ」
「おれも行く」
「すぐ帰ってくるし」
「おれも行く」
「…まあ、いいけど」

自分の雑事に付き合わせるのが申し訳なくて何度か遠まわしに断ってみたが、頑として意見を変えないマルコに諦めて腕を握られたまま歩き出した。おれが買い物に行っている間、マルコはマルコで自分の雑事や隊長の仕事を済ませておいてもらえば空いた時間に一緒に酒でも飲めるかと思いもしたのだが、この分だと言っても無駄だろう。
何も言わずに歩いていると、おれの腕を掴んでいるマルコの指にどんどん力がこもってくる。「痛いよ」。今にも骨を折ってきそうな腕力をなだめるように言ってもマルコは何も反応しなかった。足を止めて振り返ればマルコも立ち止まるけれど、何を耐えているのか、マルコは唇を噛んで地面を睨んだまま顔を上げようとはしない。

「…酒でも飲み行く?」
「……あからさまにご機嫌取りしてんじゃねェよい」

おれはただ、どうせ二人で歩くならデートだと切り替えた方がおれにとってもマルコにとっても良い提案だと思ったのに、すげなく断られてどうしろというのか。
マルコはおれが好きで、おれもマルコが好きなはずなのに、どうしてこうも上手くいかないのか。おれにはちっとも理解が出来ない。

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