贔屓だと思われても構わない。
古株で、オヤジと一番付き合いが長くて、オヤジの次に強かったもんだから副船長なんて地位についてはいるが、おれはオヤジみたいに出来た人間ではないから家族全員を平等に愛することなんか出来やしない。表向きは誰を嫌うわけでもなく、特別に可愛がるわけでもなく、つかず離れずの距離は、岡目八目の相談役として振る舞えてはいることだろう。しかし内心では、どうしてもウマが合わないやつだっているのだ。愛しい家族だから何をしようが全て受け入れるつもりではいるが、おれはどうしたってオヤジのような懐の広い人間にはなれやしない。
この血が繋がらない大家族の中で、特別苦手な家族がいれば、もちろん特別かわいく思う家族だっている。オヤジ以外、誰だってそうだろう。だから、いくら贔屓だと思われようが、おれは態度を改めるつもりはない。たとえそれで副船長の地位を下ろされるとしてもだ。
「マルコ、もうちょっとこっちへおいで」
狭いベッドの中、妙に隙間を空けようとするマルコの腰を引き寄せてぴったりと密着する。「寒くて眠れねェ」なんてかわいい文句で真夜中に訪ねてきたくせに、いざ甘やかして人肌で温まったベッドへ誘えば途端に緊張して拒むような態度をとってしまうのが可愛くて仕方なかった。
昔からそうだ。マルコはその能力から先陣を切って一番槍に、あるいは盾になるような戦い方のせいか、そもそもの性根がそうなのか、成長していくにつれてどんどん自立心が強くなっていった。誰にも甘えず、冷静さを保って周囲をたしなめる姿は頼もしいのだが、マルコが立派になっていく度におれはマルコを甘やかしたくなって、そして上手く甘えられないマルコがかわいくて仕方なくなっていった。
他の家族に「寒い」なんて訴えられたら、いいとこ寝酒をくれてやるか、真夜中に起こされようものなら甲板に叩き出して温まるまで走らせるだろう。
けれどマルコに言われたら、おれはあっさりと冷えた身体を心地よく温まっているベッドの中に誘い込んで自分の手足を湯たんぽがわりに使ってやることができる。幸い、マルコ以外の家族には誰にもそれを知られてはいないが、知られたところで構うものか。贔屓だと思われようが責められようが構わない。おれにとって大事なのは、オヤジがいつまでも元気でいること。家族が楽しそうに暮らしていること。それから、マルコを甘やかしてやれるのがおれだけだということだ。頼られたいという気持ちでオヤジにすら甘えられないマルコが、恥ずかしがりながらもおれにだけは甘えに来てくれる。これをかわいいと言わずなんと言おう。かわいいだろう。これは絶対かわいいだろう。贔屓して、甘やかしてなりたくなるのもわかるはずだ。
「マルコ、かわいいな。もっとおれを頼っていいんだぞ」
「…おれをかわいいと思うなんざ、アンタくらいだよい」
「そりゃあそうだ。お前が甘えてくれるのはおれだけだろ」
「………」
「嬉しいよ、かわいいマルコ」
抱きしめて背中を撫でて頬擦りをして、かわいいかわいい、としつこく言えば照れ隠しと抗議パンチを受けてしまった。それも本気ではないとわかるんだから、おれはもっともっとマルコを甘やかしてしまいたくなる。贔屓と言われても構わないけれど、かわいいマルコを誰かに知られるのもそれはそれで口惜しいので、もうしばらくは、『みんなに平等なナマエ』のままでいるとしようか。