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ナマエは恋多き男で、それでも真摯に相手を愛することが出来る誠実な人間だ。好きになっては告白して、付き合って、「もっと軽い人だと思ってた」とフラれてしまい、毎度のことのように律儀に泣いてしまうような繊細な人間だった。

「確かにおれは惚れっぽいけどさ、飽きやすいわけじゃないし、浮気だってしないのに」
「…知ってるよ」

一方的に零される愚痴に、相槌を打ってやるはめになったのは彼が人気のないところでぐずぐずと泣いているのを見かけてしまったからだ。これが初めてではない。頻繁にとは言わないが、サボる場所を探すクザンは時折遭遇してしまう。
ナマエとはただ同期というだけの関係であまり親しくはなかったが、だからこそクザンも彼を軽い人間だと思っていた。女を取っ替え引っ替え、自分のいいように扱って、それが周知の事実となっているからこそ彼の告白を受けるのは同じように遊び気分の女性しかいないのだ。硝子玉のように透き通った瞳を濡らして、きらきらと輝く涙を零す姿を見れば、きっとその誤解も解けて、彼を愛してくれる女性も現れるだろうに。
そう考えた瞬間、クザンは気付けば彼の顎を掴んで無理矢理こちら側に向かせていた。「…なに?」と不思議そうに瞬きをする瞳から、また一粒ぽろりと宝石のような涙がこぼれ落ちる。親指で拭ったのは、誰にもそれを見せたくなかったからだった。彼が誠実である証を誰も知ることが無ければいいと、クザンは「なんでもないよ」と言いながら溢れる涙を全て拭った。



クザンが恋だと気付いたのは反射的に涙を拭いてしまったとき です。
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