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ナマエへ

久しぶりですね。元気にしていますか。私はつい最近、仕事をクビになりました。色々と制約が多い会社だったのであなたには連絡もとれませんでしたが、晴れて自由の身です。平和な空を見ているとあなたの阿保面をなんとなく思い出し、久々に見に行こうかとも思いましたが、(何度か書き直した跡)面倒なので手紙を送るだけにします。返事は要りません。どうかお元気で。

カク



カクへ

お久しぶりです。手紙ありがとう。君が仕事をクビになった話、本当にびっくりしました。不景気なのに大変ですね(笑)
でも、僕はほんの少し安心しています。君の仕事は、危ない職業なんでしょう。君は隠していたつもりかもしれないけど、いつだって君の人差し指からは血生臭い匂いがしていたし、この町のお偉いさんが死んだという事件の後、君は消えるようにいなくなりましたから。
君がどういうことをしていてもいいけど、7年前に貸して借りパクした僕のTシャツ返して下さいね。あれ父ちゃんのだから。
7年も経ったらきっと君の鼻はさらに大きく育っていて、まだ幼かった君も大人になっているのだろうけど、僕はきっと今会ってもすぐに君だと解ると思います。君の鼻と間の抜けた顔は、忘れたくても忘れられません。

P.S.標準語で手紙が書かれていたので、偽物なんじゃないかと少し疑いました。次はいつもの年寄り臭い感じでお願いします。カクが「私」とか(笑)「あなた」とか(笑)ウケる(笑)

ナマエ
(全て走り書きのような汚い文字。一部インクが滲んでいる)



ナマエへ

(笑)という文字がこんなにもいらつくもんだとは思わんかったわい。どうせいつもの、人を小馬鹿にしたようなニヤケ顔で書いておったんじゃろう。お前は本当に変わらんな。(筆圧が強くなる)返事が来ても返事など書くつもりもなかったというのに、突っ込みどころが多過ぎてペンを取ってしもうた。

ひとつ、頭の悪いお前がよくわしの仕事に気付いたもんじゃ。まぁ詳しいことは教えてやらんがな。
ひとつ、あのTシャツはくれたんじゃないんか。お前のうちに泊まりに行った時、お前のサイズじゃぶかぶかだったわしを笑って「彼シャツみたいでかわいいからあげる」とか言うとったじゃないか。思えば今も昔も頭沸いとるなお前。ド変態じゃ。
ひとつ、お前に父親がおらんことくらい調べがついとるんじゃマヌケ。
ひとつ、わしの鼻は単品で成長せんわボケ。
ひとつ、お前より間の抜けた面はこの世に存在せんとそろそろ気付けクソムシ。
ひとつ、わしはもうお前の顔なんか忘れたから会いに行っても(なにか書き間違えて無理矢理直した跡)わしがわからん。
ひとつ、お前の「僕」とか「君」の方が鳥肌が立つわいアホ。
ひとつ、   次はもう、ない。(空白に水を零した跡)

気まぐれなんぞ起こすもんじゃない。気分が悪いから、もう返事は要らん。アホめ。

カク



カクへ

気分が悪いとか言われるとうきうきしながら返事を書いちゃうおれはドが付くサディストだって、お前は知ってたはずなのに忘れちゃったのかな。そりゃそうだよな。もう7年も前の話になるんだしな。
7年前に言うのを忘れてて、お前も気付いていたかもしれないことだけど、おれはお前のことが好きだったよ。お前の鼻にキスしたいとか、そういう意味で。
でももう昔のことだし、今はかわいい彼女もいる。目がぱちくりしてるところは、お前に似てるかな、なんて(笑)おれキモい(笑)でもカクより彼女の方がかわいい(笑)カクざまぁ(笑)

手紙、本当にありがとう。踏ん切りがついた気がする。再就職頑張ってな。カクは器用だから、きっとどこでも上手くやっていけるよ。おれも来月結婚式だから、彼女を幸せに出来るように、頑張る。

じゃあな、今度こそ、さよなら、カク。

ナマエ



ナマエへ

最後じゃからな、おめでとうとだけは言っておく。幸せにな。

カク
(簡潔に書かれた祝いの手紙に添えられて、ぐしゃぐしゃに皺の寄った紙へたくさんの罵倒の羅列と何度も何度も書き直された言葉が印されている。半分は解読不可能)



カクへ

ごめん最後にもういっこ疑問出て来た。この前の手紙に添えられてた呪いの紙はなに?到底おめでとうとか言われた気分にならない言葉がたくさん詰まってたんだけど。
あと今更だけど、毎回手紙運んでは返事を催促して帰る白い鳩お前の?かしこいなぁ。おれにくれ。

ナマエ



ナマエへ

呪いの手紙なんて知らん。多分別件で書いてたもんじゃ。今一緒に行動しとる元同僚が面白がって勝手に入れよったんじゃ。ややこしいことをしてくれるわ。
鳩は手紙とは別の元同僚のペットじゃ。かしこいもんで貸してもろうた。やらん。
もうええか。これで本当に最後じゃぞ。

カク



カクへ

なんだ、おれはてっきりお前がおれのこと   (黒く塗り潰された跡)嫌いで、先越されて悔しいから呪いの紙を入れたのかと思ったよ。
同僚と一緒にいるんだな。集団リストラ?頑張れカク。再就職だめならおれのとこで(不自然に途切れている。続きはなく、慌てて送った様子)



ナマエへ

変なところで切るな。ちゃんと最後まで書かんか。気になってしょうがないわい。

カク



ナマエへ

返事せんか、アホ。

カク



ナマエへ

もう知らん

カク






会いたい

(書き出しを何回か躊躇った跡と、殴り書きのような一言)






白い鳩が運んできた手紙は、掌サイズのカード一枚で済みそうな内容だ。最初からこう言ってくれたら、おれはなりふり構わずにお前を探しに行っていたのに。「馬鹿だなァ、カク」。呟くと、窓の外で誰かが動く気配がする。「おれも会いたいよ」。手紙の返事をすると、小さな小さな声で窓の外の誰かが言った。「でも、もう、おそい」。

「…おそい?なにが」
「お前はもう、別の女のもんじゃ」
「だから?」
「…わしのもんには、ならんもん」

拗ねた声、全然変わってない。思わず笑うと、怒りだした長い鼻がひょこりと窓から覗いた。早く入ってくればいいのに、7年も経った彼は遠慮を覚えてしまったみたいだ。

「他の女って、なんのこと?」
「……なに?」

おれが嘘をついてでもお前の気を引きたがる男だって、お前はもう忘れちゃったのかな。なァ、カク?


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