近頃世話になっている男から、好きだという告白を受けた。意味を理解した途端パウリーの頭は真っ赤になって、つい「ハァ!?」と素っ頓狂な声を上げてしまったが、その反応は間違っていないはずだ。相手は男で自分も男、その上ギャンブル好きの借金持ち。そういう趣味だったのか、と若干引きながら問い掛けたパウリーに、彼は弱々しく首を振る。「男だからじゃなくて、お前に惚れたんだよ。おれは基本的にノーマルだ」。信じられない話だった。パウリーは彼や、彼の友人でありパウリーの師でもあるアイスバーグと比べれば確かに若いが、女性的な気遣いやかわいらしさなど微塵もない。むしろ男臭いと自覚している。パウリーが彼の立場なら、パウリーには絶対に恋をしない。理解が出来ない。有り得ない。
「パウリー」
熱っぽく名前を呼ばれて、緊張で汗ばんだ手を握りしめられる。パウリーの肩がびくついたのを見て、彼は悲しそうに眉をひそめた。心がちくんと痛む。
「おれは卑怯だから、ひどいことを言うよ」
「…え、…は?」
「おれが受け入れられないなら、今すぐここを出ていってほしい」
確かにひどい。それはパウリーにとって、選択肢のない宣告だ。他に宛がないわけではないが、一ヶ月も衣食住を面倒見てもらって何の恩返しもしないまま出て行けるほど厚顔でもない。アクアラグナで家が破損したら直してくれればいいという約束も、未だ果たされないままだ。なによりこの一ヶ月、楽しかった。仕事の話やギャンブルの話、アイスバーグの若かりし頃と他愛もない話をたくさんした。彼が作ってくれる飯も上手かった。それを今すぐに手放せというのは酷だ。
どうしておれなんか好きになったんだよ。あんたなら老若男女誰だって落とせただろうに、なんでよりにもよっておれなんか。
「……お前がいいんだ、パウリー」
「え、あ」
彼の唇が触れて、柔らかくパウリーの唇を押し潰した。心臓が痛いくらいに波打っている。顔が発火しそうに熱くて、息もできない。はれんちだ、と叫び出しそうに開いた口の中にぬるりと舌が入ってくる。驚いて閉じそうになった歯の間に、ナマエの指が挟まって閉じられなくなった。
「ふ、ぅぐ、っぐ…!」
「…パウリー」
唇が触れ合ったまま情熱的に名前を呼ばれて、混乱を極めたパウリーの腰がとうとう砕けた。へたりこんだ床の上で、呆然とした目でナマエを見ると、苦しそうにパウリーを見つめる瞳とかちあう。なんでお前がそんな顔するんだよ、と言いたいのに、啄まれた唇が痺れたように動かない。ただぱくぱくと口を動かすパウリーにもう一度口づけて、ナマエは容赦なくジャケットへ手を掛けた。こいつ、やる気だ。
「
「ちっ…」
「おい今舌打ちしたな!?お前がおかしいだろこれは!つ、つつつ、付き合っても、ないのに…っ!」
「だって付き合ってくれないだろ、パウリー」
「勝手に決めんな!!」
勢いのまま口をついた言葉の意味に気付いて、パウリーはハッと息を詰めた。これでは付き合うから今は落ち着けと言っているようなものだ。恐る恐るナマエの反応を確かめると、案の定にっこりと笑った顔があった。
「…ちょっと、待て、今のは」
「パウリー、おれはお前が好きだよ」
「待て、」
「お前を拾ったのがおれで良かった。お前を好きになって、とても苦しいけど、とても幸せだ」
「待て、って」
「待つよ。やけくそになって焦ったけど、パウリーがおれを受け入れてくれるなら、いくらでも待つ」
あいしてるよ。
耳元で囁かれて強く抱きしめられて、恋愛経験値が0に等しいパウリーにはもう限界だ。熱でショートした頭は上手く動かず、流されるまま抱きしめ返して頷いてしまった。
後悔をしても、後の祭。それを知っているのは今のところナマエだけだ。