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ナマエが政府高官の娘と交際している、という噂が流れてきた時、即座に否定したのは事前に彼からの申し開きがあったからだ。最近つきまとわれて困っている、好きな人がいると言っても諦めてくれない、とうんざりした顔でぼやく彼を、つるは「そうかい」と言って仕事の片手間に相槌を打ってやった。やたらと熱い視線で見つめてきたのは、おそらく助けを求めてのことだろう。「その好きな子とやらを目の前に差し出してやりゃあいいんじゃないのかい」。随分と投げやりな提案を、ナマエは首を振って却下した。「片想いだし、その子に迷惑が掛かるのは避けたい」。普段、浮いた噂のひとつもないくせに、熱烈なことをいうものだな、と思った。それだけの話。

広い海軍本部の、長い廊下の向こう側から、いやに甘ったるい声が聞こえてくると思ったら件の政府高官の娘だった。常に危険と隣り合わせにある海兵には決して出せないような、平和しか知らないような柔らかい声だった。つるが気付くと同時に、ナマエがつるに気付いた。目が合って、そして、逸らされた。一瞬のことだった。彼はつるの存在を見なかったことにした。
偶然を装って助け船を出してやっても良かった。助けて欲しいのなら、目で訴えてくればそれだけでつるには理解出来たはずだ。けれど彼はそれをしなかった。
つるに関係ないとばかりに遠ざかっていく声を、追うようにしばらく廊下の向こうを見つめていたけれど、すぐに視線を逸らして真っ直ぐに進んだ。彼の、気まずそうに逸らされた目が、瞼の裏に焼きついて消えなかった。



つるが恋だと気付いたのは目が合ってからそらされたとき です。
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