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夏島の夏は焼けるほど暑い。じりじりと頭を炙られていくようで、日差しを避けようと目の前の向日葵畑に潜り込む。おれの背を遥かに超える大輪の向日葵は直射日光からも周りの喧騒からも隠してくれて、まるで自分一人だけの部屋のようだ。
文句があるわけではないけれど、白ひげ海賊団ほどの大所帯では常に誰かと一緒にいることが当たり前で、一人の時間などほとんどない。気がおけない仲間たちといえど、誰の目もない環境というのは思いのほか快適だ。避暑と休憩を兼ねて地面の上に腰を下ろすと、ほぼ同時に目の前の向日葵の茎がガサガサと揺れて見知った顔が現れた。

「…マルコ」
「気分でも悪いのかよい」
「いや、暑すぎて休憩」

向日葵の屋根と壁で区切られたこの場所をきょろきょろと見回して、「確かにいい場所じゃねェか」とマルコも近くの隙間へ腰を下ろした。一人だけの空間が、二人きりの個室へと変わる。一人にしてくれ、と言うのも酷だろう。向日葵畑の外側は焼けるほど暑い。それに、マルコが向日葵畑へ入ったまま出てこないおれに気付いたのは偶然ではないことを知っている。おれはずっと、見張られているのだ、マルコに。理由など簡単。マルコはおれが好きだから。

口に出して言われたわけではないけれど、態度を見ていればわかる。他のやつらももしかしたら何人かは気付いているのかもしれないが、何も言われないので他人の恋路になど興味のないやつらか、あるいは案外気付かれないようマルコが上手くやっているのか。どちらにせよおれが口を出す話ではない。マルコがおれを好きなだけ、ただそれだけの話だ。

「…暑さに弱いのかよい」
「いや、別に」
「この間の夏島だって、日陰にばっかりいたじゃねェか」
「そうだっけ」
「そうだ」

本人でさえ無意識の、忘れてしまうようなことをわざわざ指摘してくるのは、それだけおれのことを見ているのだとアピールしているのだろうか。かと思えば、「おれァ船医なんだ、船員の体調管理くらい、する」と付け足して特別なことではないのだと訂正してくる。確かに、船医ならこうして暑さに弱そうな船員がどこかでぶっ倒れないか見張っていようと、なんの不思議はない。上手い言い訳だ。「おれは大丈夫だから、他に熱中症でも起こしてるやつらがいないか見てきてやれよ」と突き放されて不貞腐れたような顔さえしなければ。

「…こんな物陰で倒れたら、誰にも見つけてもらえねェだろうが」
「倒れねェって、休憩してるだけなんだから」
「寝たりしたら」
「しねェよ」
「…信用出来ねェ」
「ひでェな、前科もねェだろう」

おれは兄弟たちの中でもしっかり自己管理ができている方だ。酒の飲みすぎもなければ金遣いが荒いわけでもないし食事だって偏りなく食べる。海賊の中ではお上品な分類に入るだろうおれを、心配してついてくる方がおかしいのだ。だからマルコの好意にもすぐに気付いてしまった。どうしておれなんかを好きになったのか。ついて回ってくるのか。おれじゃなくたって、マルコならいくらでも。

「構うなよ、時間の無駄だ」

日差しからも喧騒からも隔絶された空間に、やたらとおれの声が響く。思いのほか強くなってしまった言葉にマルコが目を丸くして、その顔が歪む前に腰を上げた。

「…お前が面倒見てやんなきゃいけないのは、他にいるだろ」

向日葵畑の中から顔を出せば、すぐさま降り注いでくる灼熱の日差しと聞き馴染んだ声の喧騒。誰かがこの気温で体調を崩したと、医者の助けを求めている。

「ほらマルコ、お呼びだぞ、行けよ」
「…言われなくても」

おれに続いて日陰から出てきたマルコは、何事もなかったかのように背を向けて去っていく。今ならきっと引き止めてもおれの為に留まってはくれないであろう、その素っ気ない背中ならば好きなのだと言ったらマルコはどんな態度を取るのだろうか。

追われるよりも追う方が興奮するからお前がおれを好きな限りおれはお前を好きにならないよ、などと。
嫌ったふりでもされたらつまらないから、マルコにはずっと、ないしょの話だ。



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25.夏の思い出@マルコ「大輪」「喧騒」「ないしょ」


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