short | ナノ


グラディウスがドフラミンゴに拾われてファミリー入りした当初から、彼の面倒を見ていたのはナマエだった。生活、戦闘、海賊としての生き方。このファミリーの一員として過ごしていくために必要な術を教えてやれる立場だったので教えてやったというだけだったが、二人で行動することも多くなり、甘え方を知らない子供を甘やかしてやっているうち、お互い恋愛感情を抱くようになったなんてのはまあよくある流れだろう。プライドが高く真面目で融通のきかない青年に成長したグラディウスが可愛く見えて、自分にだけ甘えたり頼ったりする姿に満足していたからナマエはグラディウスにそれ以上を求めなかった。というか、『それ以上』に関しての教育を忘れていたな、というのが実際のところだ。

それまで生きているだけで精一杯の環境にいたグラディウスは、色恋沙汰に関しての知識が極端に少ない。教育係のナマエが教えなかったことで本人も不要な情報だと思ったらしく、年頃の男が興味を抱いて当然のことにも目を向けてこなかったようだ。
その結果、抱きしめるだけで真っ赤になって、キスをすれば一線を超えたと思うようなおぼこに育ってしまったグラディウスを、自分好みに躾けるという選択肢ももちろんあったのだが、ナマエはそのまま放置を決め込んだ。別に枯れているわけでも我慢をしているわけでもなく、本人が満足しているならこれでいいだろうという親心にも似た甘やかしと、それから。



「っあ、すいません」

偶然手が触れるだけで真っ赤になって、さっと身を引くグラディウスに、ナマエは温かい気持ちになる。「恋人なんだから、好きに触っていいんだぞ」と教えてやれば、グラディウスは一瞬躊躇ったあと、おそるおそるとナマエの手を握った。そろりと肩を寄せて、ゴーグル越しの目が物欲しそうにこちらを見上げてくる。頭を下げて口元に近付いてやれば、微かに震える指でマスクを外したグラディウスは、ちゅ、と音を立てて頬に口づけ、それだけで恥ずかしそうに俯いた。ナマエにしてみれば児戯のような接触だ。それでもグラディウスにとっては精一杯だと知っているので、褒めるように頬を撫でてやった。

「もういいのか?」
「え、…いえ、あの、もう少し」
「ん、どうぞ」

促されて、グラディウスが頬に、目元に、口の端に、触れるだけのキスを落とす。唇にしてこないのは、そこが一番いやらしいと思っているかららしい。今は二人きりとは言え、壁を隔てた向こう側に他のファミリーもいて、そして自分からそこに触れるというのはまだハードルが高いようだ。したいけど恥ずかしい、淫らなやつだと思われたらどうしよう、と言わんばかりの逡巡した仕草でキスをやめたグラディウスに、ナマエは「もういいのか?」と再度聞いた。躊躇いながら頷いた顔は、どう見ても『まだ足りない』と訴えている。

「じゃあ、今度はおれの番だな」
「え」

繋いだ手を引き寄せて、手袋越しに口付ける。びくりと震えたグラディウスがもう一方の手を伸ばしてきたので、そちらは手袋の裾に指を潜り込ませて捲り上げるように脱がせ、顕になった指先をぱくりと口に含んだ。

「あっ!」
「こら、あまり騒ぐと誰かが見にきちゃうぞ」
「あ、す、すいません、」

反射的に謝って小声になったはいいものの、たったこれだけで息を荒らげ、見ていられないとばかりに宙に視線を泳がせて、明らかにキャパオーバーとなったグラディウスはこれ以上のことをしたら悲鳴をあげてしまうだろう。この程度で、とは思うものの、この程度で普段の硬質な態度がどろどろに溶けてしまうのはとても可愛らしいことなので、ナマエはこれ以上のことを教え込む気はさらさらないのだ。今のところ。



グラディウスに楽しそうに「騒ぐと誰かに気付かれるよ」と囁いて指先に口づけてちゅっと口に含むと、はあはあ息を弾ませながら宙を見つめました。
#大好きだから意地悪したい
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