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触れる指の感覚が普段と違う。体温はなく、骨のようにかたい。白く変色したナマエの指先は、明らかに人のものとは言えない有様だ。

「…植物や動物になりたいとは思ったこともあるけど、まさか石になるとは思わなかったな」

無言のまま指先を睨みつけているルッチに、何てことのない話のようにナマエは笑いかける。毛皮で覆われたルッチの首筋を撫で、耳の後ろや顎の下を掻く手つきは変わらないのに感触だけが違う。石でなぞられているような感覺が不快とまでは言わないが、いつもの心地よさとは雲泥の差だ。首を振ってその手を払ったルッチは、低い声で「いつからだ」と聞いた。任務で島を出る前までは、普通の人間の手だった。それが一ヶ月にも満たないうちに帰ってきたところ、この男の手は硬く、冷えて、動かない石のようになってしまっていた。いくらグランドラインが不思議なことばかり起こる海だといえど、能力者による攻撃以外に身体が石になっていく現象など聞いたこともない。そして、留守の間も今も、そんな力を持つ能力者がこの島にいたなどという報告も聞いてはいないのだ。

「一週間前かな。朝起きたら指先が動かなくなってて、だんだん広がってきてる」
「…医者は?」
「どれが医者なのかわからない」

チッ、と大きく舌打ちをしたルッチは、別に心配しているわけではない。ただ、撫でる手つきの心地よさだけが取り柄のこの男にわざわざ会いに来てやったというのに手がこれでは、裏切られたようで不愉快なだけだ。

「まあ、ルッチもわからないっていうなら、医者に見せたところで無駄だろ」
「…このまま彫像にでもなるつもりか?」
「全身が固まっていくなら、そうなるだろうね」

チッ、ともう一度舌打ちをしたところで、ナマエは既に自分の状態を受け入れ、治そうと努力するつもりはないらしい。「できれば草花になりたかったけど、自然の一部と考えれば石も悪くない」。馬鹿げた話だ。救いようのない馬鹿だ。

「それより、これのせいなのか知らないけど、お肉がすごく食べたいことの方が困る…」

身体が石になっていくことよりもよほど弱りきったと言わんばかりの声で、豹の首筋にしがみついて頬ずりをしてくる。「肉食獣ってこんな気分?」と聞かれたところで、それこそどうでもいい話だ。全身が石になってしまえば肉を食べるどころではないだろうに。本当に、馬鹿な男だ。



イツキは体が指先から結晶化してゆく病気です。進行すると普段とは違う物が食べたくなります。愛する者の皮膚が薬になります。
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