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「コックが指輪なんてつけてられっか」というサンジの言い分はもっともだ。衛生面を考えれば料理の最中は外しておくべきで、大食漢が乗るこの船のコックともなればキッチンに立っていない時間の方が少ない。
確かにそうだ、と頷いたおれは、別に傷ついたわけでも腹が立ったわけでもなかった。ただサンジの瞳によく似た色の石がついた指輪を露天商で見かけたから買って、持って帰って、船についたら偶然サンジと二人きりだったので「入るかなあ?」と左手の薬指にはめてみただけだ。
指輪を買ったのも、それをサンジの指にはめたのも、何かを考えてのことではない。ルフィほどではないにしろ直感で動いてしまう癖のあるおれは、ぼーっとしながら適当なことをしてしまう。きれいだな、と思ったら手に入れたくなるし、好きだな、と思ったら触りたくなる。だから今回も、きれいだと思った指輪を買ったし、好きなサンジの手に触る口実としてその指輪をはめたっていうだけだろう。深い意味なんかないのだ。だから、自分の指につけられたものが指輪だと知って、顔を真っ赤にした恋人が「指輪なんてつけてられっか」と可愛げのない照れ隠しをしたとしても別になんとも思っちゃいない。きれいだから欲しくなって、好きだから触ったという、それだけの話だ。

「まあ、もらっといてよ。おれの指には入らないし」
「ど、どうせ、いつもの衝動買いだろ…」
「うん、サンジの目の色に似てきれいだなって」
「……ばかいってんじゃねえ…」

普段のよく通る声が、萎れたようにか細く小さい。つけてられっか、なんて拒絶の言葉を吐いたくせに、はめた指輪を取ろうともせずじっと見つめているサンジが本当に鬱陶しがっているかなんて、わざわざ確かめるまでもない。おれの恋人はとっても素直でかわいいのだ。



貴方は時間があるなら『左手の指輪をうっとり見つめているサンジ』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
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