short | ナノ


贔屓をするつもりはない。弟や妹はみな可愛く、守るべき存在だ。けれど遅くの方に生まれたこの弟は、他の兄姉にも特別可愛がられていると思う。顔がかわいい。仕草がかわいい。言うことがかわいい。みなに平等に、そして時には厳しく、と自分を律するカタクリでも、あのつぶらな瞳と、抱きしめてと言わんばかりに広げられた両腕を拒むことは憚られた。2人きりの時であれば尚更だ。

「カタクリ兄さん、大好き。ねェ、カタクリ兄さんは僕のこと好き?」

キラキラの目で愛を乞う姿が、我が弟ながら完璧な愛らしさでカタクリの言葉を誘ってくる。「ああ、好きだぞ」と言ってやれば、嬉しそうに顔をふにゃふにゃと蕩かせて、「ほんと?あいしてる?」とまるで恋人のようなことをいう。愛に飢えた子供なのだ。たくさんの兄姉に愛されてはいるが、愛される理由が顔の造詣と、自分で努力して作った仕草や台詞だとわかっている。無理をせずとも、とカタクリは思うのだが、かつて「どうせ本当の僕は誰にも愛してもらえない」と冷めた声でカタクリにだけ吐露した気持ちは普段の努力を表すようで、カタクリにそれを否定することは出来なかった。そのせいだろうか。2人きりになるとしがみついて甘える弟が自分には本心から好意を示しているようで、求められるままに甘やかしてしまう。

「ああ、愛してるぞ」
「えへへェ」
「…お前の顔が傷付いても、喉が潰れて何も言えなくなっても、身体が動かなくなって何も出来なくなっても、おれはお前を愛してるぞ」

存在の全てを肯定した言葉にナマエは目を丸くしたあと、一層顔をでれでれと崩して笑った。「嬉しい。僕も、カタクリ兄さんが強くなくても、かっこよくなくても、兄さんじゃなくなっても、ずっとずっと愛してるよ」。ぎゅっとしがみつく腕に力が増して、くっついた腹が温かくなる。宥めるように腕を叩いて離すよう催促してみるが、いやいやと振られた首と尚更強くなる腕の力を察するにまだまだ解放してはもらえないようだ。普段ならば、誰かを困らせるほどまとわりつく弟ではない。最適な引き際を知っている。それが今は、自分の気持ちを最優先にして、しつこいくらいにカタクリの言葉をねだった。

「ね、もっと言って」

お願い、と恋人のような催促に抗えないなど、数多くの弟妹には決して見せられない姿だ。



【カタクリの場合】
愛してると伝えたら相手は嬉しそうに微笑んだ。可愛いなあと思う。愛してるともう一度言ってみると、もっと言ってとねだられた。本当に可愛いなあと思う。
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