「お前と一緒にいたらだめになる」
掠れた声で呟かれた言葉に、おれは返事をしなかった。まともに取り合ったって別れるだの別れないだのと不毛な言い合いになるだけなのだ。アイスバーグさんだっておれと別れたいわけではないくせに、定期的にそんなことを言い出すのはアイスバーグさんの人間性が立派すぎるせいだろう。
帰ってきたらご飯も風呂も用意されてて掃除も洗濯もする必要がない。生活に必要な消耗品の買い出しも、家具が故障した時の修理や買い替えも全ておれが担当している。常に社長として市長として責任をその背に担い、島の人からも社員からも客からも引っ張りだこのアイスバーグさんにはこの至れり尽くせりで何の手出しも必要ない状況というのは休めるどころか落ち着かず、罪悪感すら湧いてくるらしい。つまり、自立していないと不安な人なのだ。誰かに甘えるというのが下手くそで、だからこそ立派な為政者かつ経営者として成功しているのだろうが、そのうち重責に潰されて人知れず摩耗していきそうだと思っていた。
とはいえ甲斐甲斐しく世話をするのはおれの元からの性分なので、アイスバーグさんはそろそろ観念するべきだ。
「愛が重い」「鬱陶しい」「尽くし過ぎ」。おれが歴代の恋人からフラれる時に言われてきたセリフである。
「…はい、終わりましたよ」
風呂上がりに濡れた髪を乾かしていたタオルを置くと、アイスバーグさんの瞼はとろとろに溶けて今にも眠りそうになっていた。こうやって髪を拭かせてもらうのも最初は抵抗していたのに、今ではおれが拭くまでびしょ濡れのままで放置するどころか拭いている最中に寝落ちまでしてしまうのだから、「一緒にいたらだめになる」なんてどの口が言うんだか。
「…おれは、アイスバーグさんといないとだめになりますよ」
無防備な額にチュッとキスを落として、くたくたの体を抱き上げベッドまで運んでいく。おれという他者に体を動かされても起きないどころか、起きていても自分で動こうとしなくなったアイスバーグさんはそろそろ観念するべきだ。おれの重い愛情を受け止めておいて嫌悪感を抱かない稀有な人間を、今更逃すつもりなんてこれっぽっちもないのだから。
アイスバーグで「一緒にいたらきっとだめになる」とかどうでしょう。
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