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「お頭ー!」

おれを呼ぶ声が聞こえる。顔を向けても姿は見えず、応えてやるにはこちらからも声を出すか探しに行ってやらなければならない。

「呼ばれてんぞ」

言われなくとも知っていることをナマエさんがおれにわざわざ伝えてくるのは、親切なんかではない。にんまりと弧を描く唇。楽しそうに笑う顔は悪辣とも言えるほど可愛げがないのに、楽しそうな理由を知っているおれは腹立たしいよりも照れ臭くなってしまう。

「行かなくていいのか?」

促すようなセリフを吐くくせ、指の一本一本を絡めるように繋がれた手は離れない。
用が無いのは分かっているのに、そうされるとどうにも弱かった。離したら離れていってしまう気がする。しつこいくらいに付き合いの長いこの人が、今更そんなことで離れていくはずもないというのに。

「…大事な用なら、見つかるまで探すだろ」
「ひどいお頭だ」

批難するくせに機嫌良さそうな顔。散々ひとの身体を好き勝手弄り回しておいて、今更この程度でこんなにも喜ぶんだから、可愛げがあるんだかないんだかわかりゃしない。



スオウにとって「手をつなぐ」ことは『今だけは、僕だけの君だ』という意味です。
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