ジョズは大きな体を揺らして甲板へと出た。3番隊で集合があると言ったのに、集合時間を10分過ぎても現れない隊員を探すためだ。
燦燦と太陽に照らされた板張りの床の上で、一人の男が横たわっている。ジョズはその姿を見掛けて、ひやりと肝を冷やした。
血の気のない顔に、微動だにしない細い体。手は遺体のように腹の上で組まれていて、まるで毒林檎を食べた白雪姫のようだった。ジョズは恐る恐る近付いて男を確認する。よく知った顔だ。なにせ、ジョズが長を務める三番隊所属のナマエである。
心身共に健康な男達ばかりの海賊船には不釣り合いなほど華奢で虚弱に見えるナマエは、こうして時折外で昼寝をしているが、その姿は心臓に悪い。どう見ても死体だ。
呼吸が浅く、胸すら動かないナマエの側にひざまずいて、ジョズは巨体を屈めた。口元の近くに耳をやると、すぅ、すぅ、規則正しい寝息が微かに聞こえてくる。それにようやく安堵をして手を肩にかけて揺さぶるが、その華奢な体躯と冷えた皮膚のせいで無理に動かせば壊れてしまいそうでゆらゆらと小さく揺らす程度が精一杯だ。「ナマエ」。困った気持ちが声にまで出てしまい、呼び掛けた声色の情けない響きに、「ふふ」と目の前の死体もどきが微かに笑った。
「…起きてるんじゃないか」
「いま、起きました。ジョズ隊長が、あまりにも可愛い声を出すものだから」
「からかうな」
「キスしてくれるまで黙っていようと思ったのに」
「…起きてたんじゃないか!」
くつくつと笑う顔は生意気で腹が立つというのに、相も変わらず青白く不健康なせいで拳骨ひとつ落とせやしない。なんて卑怯な男だろうか。