「藤虎大将と初日の出見たら、なんかいい事起こりそうですよね、ほら、フジもトラも縁起物ですし」
年明けにかこつけて開かれた宴会の最中、普段イッショウの補佐官をしている真面目で世話焼きな男がそんなことを言いながら笑っていた。酔っているのだろう、本気か冗談かもわからないが、本気にせよ冗談にせよ、イッショウの返答はたったひとつだ。
「あっしは構いませんぜ、お付き合いしましょうか」
目の見えないイッショウが、彼のためならば彼のためだけに初日の出を見に行くのもやぶさかではないという好意の表れは正しい意味で伝わったようだった。「本当ですか、嬉しいです」と言うやいなやイッショウの手を引いたナマエは、飲めや歌えやの騒がしい宴の場からすぐさま退室した。そしてそのまま連れ込まれたのは、東の空に面した窓がある彼の自室だ。簡素なベッドの上に、二人並んで座り込む。寒くないようにと肩にかけられた毛布はナマエの匂いがした。
「ここから、すごく綺麗に日の出が見えるんですよ。イッショウさんの分まで、今年はいいことがあるように願掛けしておきますからね」
酔いの回った熱い手で、ずっとイッショウの手を握り締めながら真面目な男は真面目くさった口調でそんなことをいう。早速ご利益があったようだと、繋がれた手を握り返しながら、イッショウは黙って夜明けを待った。