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おれは生来知識欲が人一倍強くて学者になったが、自分が知りたいというだけで何かを生み出す意思はなかったので科学者としては落ちこぼれだ。知識の量を買われて海軍に勧誘されたものの、既にベガパンクやシーザーといった天才がいたものだからおれは海軍に貢献するよりも二人から感銘を受けていた割合の方がよっぽど多い。特にシーザーは、おれに研究の成果をよく見せてくれていた。「おれには無い発想だ、素晴らしい」と褒めたのがきっかけだと思う。他人を見下すくせに褒められると調子に乗る癖がある彼は、それ以来なにか研究で新しい発見があると自画自賛の声を上げ、ちらとこちらを見ることが多くなった。彼の成果が周囲からどんな評価を受けているにせよ、おれにとっては真新しい知識であることに違いはない。余程のことがない限り自分に任せられた仕事を放り出してでもそのアピールに応えてやった結果、どうやら随分懐かれてしまったらしいと気付いてももはや後の祭だった。

死んだはずの島、豪雪と溶岩、気候の狂ったパンクハザード。
「ちくしょう、ちくしょう」と海軍への文句とベガパンクへの呪詛を並べ、危険な研究を続けるシーザーに、おれは道連れにされてしまった。「お前は連れていってやる」と、さもおれの為であるかのようにシーザーはおれを捕らえたのだ。
興味はあった。周囲から止められていた彼の研究の果を見る機会は、確かに彼に着いていかねば途絶えるだろうと判断した。だから抵抗もせずに着いてきたのだ。自分の知識欲を満たすために。

「やはりおれは天才だ!」。諸手を天に掲げて快哉を叫ぶ声が聞こえる。そしてちらりと乞うようにおれを見る目に、おれは応えてやるのだ。

「どうしたシーザー、また何か世紀の発見でも?」

優しい声で褒めたたえて甘やかして喜びを共有して。
この閉鎖的な空間で、茶番のような関係は続いていくのだろう。

彼が科学者としての終わりを迎えるまで。



<シーザーの甘え方>
ちらとこちらを見ることがほとんどで、構ってあげると懐きます。
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