SSリクエスト祭2 | ナノ


「ドフィ、どうしたんだ?ドフィ!!」

慌てたような声を上げて、小さな背中を追っていく大人は幼いヴェルゴから見ても滑稽だ。
王の器を持つドフラミンゴをボスとし、こうべを垂れて従うのはもはや当然のことであって、そのボスがまだ年端もいかぬ子供だからと滑稽に見えるわけではない。それなりに力を持つ大人でさえも従うだけの資質がドフラミンゴには備わっている。
だから滑稽なのは大人が子供に従う図ではなく、従っているナマエという男本人に原因がある。この男、あまりにも察しが悪いのだ。
自分の中の常識と思い込みで生きている節があって、他人を理解するということがまるで出来ない。要求ははっきりと口にしなければ伝わらないし、暗黙の了解というのも汲み取れない。そのくせ自分では気遣っているという意識だから厄介だ。「ドフィのためを思って」と言いながらとる行動は7割が的はずれなもので、毎回ドフラミンゴを苛立たせている。
今日だってそうだ。ヴェルゴとドフラミンゴ、ナマエの3人で食事をとっている時のことだった。ヴェルゴの頬についた食べかすを、「まーた零してら」と笑いながらぱくりと食いついたのはおそらく『もったいないから』という理由だ。ナマエはドフラミンゴを大切に扱い、王に従う者として節度をわきまえた態度を取るが、ドフラミンゴと同世代のヴェルゴには完全に子供扱いをしてくる。遠慮なんてしないし、コミュニケーションと称して無理矢理スキンシップをとってくることもしばしば。ヴェルゴがまだ小さいのをいいことに力の差でいいようにされているが、扱いはぞんざいで適当だった。仲が良く見えるかもしれないが、まったく大事にはされていないのだ。

しかし、ドフラミンゴにはその遠慮のないコミュニケーションが羨ましく見えたのかもしれない。口の端にほんの少しだけついたトマトソースを、いつものようにナフキンで拭うこともなくそのままに「ナマエ」と呼びつけたドフラミンゴは、ナマエにそれをとって欲しかったのだろう。尊大な態度によりそれは甘えているというよりも従わせると言った仕草なのだが、どちらにせよ口の端についたトマトソースとそれを示すように突き出した顎を見ればナマエを呼んだ理由など子供のヴェルゴにとて察することが出来る。
だが、それが出来ないからこの大人は滑稽なのだ。ドフラミンゴの示した意図を一切汲み取ることが出来ないまま、「…ん?どうしたドフィ。おかわりか?」と見当違いの言葉を返したからドフラミンゴを怒らせてしまった。しかも、明らかに口の端のトマトソースを視認した上で無視したから更に悪い。本人的には、指摘したら恥ずかしい思いをするだろうから、と遠慮したつもりなのかもしれないが、違う、気遣うべきところはそうじゃない。
案の定ドフラミンゴは機嫌を悪くして、ナフキンをナマエの顔面に投げつけ部屋に戻って行ってしまった。小さな背中を慌てて追いかける大人のなんと滑稽なこと。一回や二回程度の間違いならばまだしも、わざとじゃないかと思うほど毎日こういった勘違いを繰り返しているのだから救いようがない。本人にはまったく悪気はなく、それでいて全力でドフラミンゴを気遣っているつもりなのだから改善の余地もなかった。ヴェルゴを始め、トレーボルやディアマンテ、ピーカが「ドフィはお前に構われたいんだ」とはっきり告げているのに、本人の頭の中にはどんなドフラミンゴ像が存在しているのか知らないが「それは有り得ないし、おれはなによりもドフィを優先してる」と言い切って端から否定してしまう。
怒らせる度に追いかけてフォローしようとしているが、それもきっと無駄なことだ。今回だって、すぐにすごすごと引き下がってきてしまうに違いない。

「うるさいって言われた…ヴェルゴォ、食事中に喋るなってことなのかなァ…」

やはり、というべきか予想通りというべきか、ドフラミンゴを追いかけたナマエはちゃんと謝ったのかと疑ってしまうほどすぐに戻ってきた。ナマエとしては、おそらく「どうしたんだ?何を怒っている?悪かった、機嫌を直してくれ」と話しかけた返事が「うるさい」だったから気を遣って姿を消すべきだという考えなのだろうが、ドフラミンゴからしたら追いすがることもせずさっさと退散した薄情者だ。許されるまで謝り続けることが正解だろうに、このバカはそんなこともわからないから事がややこしくなる。

「お前に甘えたかったんじゃないのか」

口についたトマトソースを拭いてやれば良かったんだ、と限りなく正解に近いはずの答えを提示してやったというのに、「まさか!ドフィが?ありえない!」と何の根拠もない自信に満ちた否定で却下するのだ。この男の中にいるドフラミンゴは、随分と崇高に満ちた存在であるらしい。それはヴェルゴも否定しないが、お前の前だけは少し子供らしくもなるのだと、言ったところで自信満々に否定されるのだろう。その思い込みこそが違うのだと、言ったところで無駄だから厄介だ。

「おれってドフィに嫌われてるのかな…あんまり近づかないでおいた方がいいのかもしれない」

    だから、そうじゃないと何度言ったら。

「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -