コラソン長編 | ナノ


「聞きたいことはたくさんあるだろうけれど、今日はおしまいにしよう。お前は安静にして、早く傷を治さなくちゃならないんだ」

母親が風邪をひいた子供に対するように優しい声で促されて、コラソンはそれ以上何も言わずに大人しくベッドへと横になった。休まなくてはならないと理解しているよりも、ヘルツの言うことを聞かなければならないといったような強迫観念に囚われた行動だ。

破戒の申し子のようなドフラミンゴでも、ヘルツにとっては確かに『救世主』であり守るべき『家族』だった。それを捨ててまで、文字通り自分を殺し、ファミリーの全てを欺いて、それがコラソンを救うためだったとしたなら、どうしてそこまで出来るのかコラソンには理解が出来ない。どんな言い訳を連ねて正当性を主張し体裁を整えたところで、コラソンはファミリーにとって裏切り者でしかないのだから。

「…どうして、怒らないんだ」

ローを促し退室しようとするヘルツの背中へ縋るように、コラソンはもうひとつだけ疑問を投げかけた。彼の持つ優しさゆえに見捨てることが出来なかったとしても、よくも裏切ったなと一言くらい責めてもいいはずだ。悲しんで苛立って戸惑って、それら全ての感情を怒りにしてぶつけても当然のはずだ。しかしヘルツはコラソンを責めない。怒っている様子すらない。淡々とした様相の彼に、なにをどうやって返せばいいのかコラソンはわからなかった。
途方にくれる迷子のような声で問いかけるコラソンに、ヘルツは決まりきった答えを述べるように淡々と答えた。

「恋は盲目って言うだろう。好きだからだよ、お前のことが」

しれっと言われた理由に耳を疑う。視界の隅に見えたローも、ぎょっとした目でヘルツを凝視していたが、コラソンは今そちらへ気を遣う余裕がなかった。思わず再びベッドから身体を起こし、ばくばくと脈打つ心臓を胸の上から押さえつける。カラカラに乾いていく喉を無理矢理飲み下した唾液で潤してからコラソンは口を開いた。

「お、おれも、好き、だ」

今度はローのぎょっとした瞳がコラソンの方に向いたが、人前で、しかも子供の前で告白するという羞恥に構っている暇はない。今どうしても言わなければいけないことだった。
家族としてでもよかった。どんな感情でも、好意ならばなんだってよかった。コラソン自身でさえ、今まで自分がどんな感情で彼を想っているのかは不鮮明なままだったが、言われてしまえばすんなりと自覚できる。好きだ。ヘルツが好きだ。ずっと、マフィアでなければと思っていた。裏切りを知られた時にどんな反応をされるのか怖くてたまらなかった。しかし、全てを知っていて、それでも好きだと言ってくれるなら、それがどんな感情から来るものでも構わなかった。好きだ。この、優しい男のことが。

顔を真っ赤にして、震える唇を噛み締めて、気持ちの全てをひねり出すように告げたコラソンに、しかしヘルツから戻ってきた返事はたったの一言だった。

「ふーん」


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