わんわんと泣き喚くローを前に、おれはただおろおろと戸惑い行き場のない手をうろつかせ助けを求めるように目を泳がせるばかりで何もすることが出来なかった。なにせ泣き始めた理由が皆目見当もつかないのだ。
ローはかわいい妹分であり、ズボラなおれの世話をよく焼いてくれる面倒見のいい娘である。研究職で室内に引きこもりがちな生活から「デート」という名目を使ってまでわざわざ外に出して日の光を浴びさせようとしてくれるし、栄養不足で倒れられちゃ困るとよく食事を作りにも来てくれる。彼女のことは幼い頃からよく知っていて、だからこそ今もまだ仲良くしてもらえることはとても嬉しい。
けれどこんな不精者の面倒ばかり見ていたら彼氏のひとつも出来ないんじゃないかと心配して、「おれのことはいいから、遊んでおいで」と提言してみたらばひどい形相で睨まれたあとに強烈なビンタをお見舞いされて、これだ。プライドが高くて弱みなんか一切見せず、いつも飄々とした態度のローが声を上げて泣いている。これは一大事だ。しかしおれには理由がとんと見当たらないので、どうしたらいいのかもわからずただおろおろと狼狽えるしかないのだった。
ロー、なあ、ロー、泣かないで。
幼い子供を宥めるように声を掛け、そっと涙で濡れた頬に手を伸ばす。
なにがそんなに悲しいんだい、教えておくれ。
触れても嫌がられそうにないのでそのまま指先で濡れた目尻を拭い、ローがまだ小さな子供だった頃と同じように抱きかかえて背中をゆっくりとさすった。
よしよし、かわいそうに、おれのせいかい?なにがお前の気に障った?ごめんなあ、許してくれよ、おれは昔から勉強ばっかりやってたから、人の気持ちに鈍いんだ。ごめんなあ、ごめんなあ。
平謝りすればようやく気持ちが治まったのか、すん、と鼻をすすったローはおれの首に腕を絡めるようにすがりつき、「キスして」とねだった。思春期に入ってからは無くなってしまった、挨拶の習慣だ。おはようもおやすみもいってきますもおかえりも、もちろんありがとうもごめんなさいも、おれの故郷では必ずキスをして親愛の情を表す。小さい頃は喜んで受け入れてくれていたこの習慣もローが13になってからは顔を真っ赤にして嫌がるようになってしまったので寂しかったが、久々にねだってもらえておれはこんな時だというのにテンションが上がって唇はもちろん頬や瞼、額や顎にと顔中にキスをしまくった。それでもローは嫌がるでもなく、泣いたせいか目元を赤くして「これから毎日、キスをしてくれたら許してあげる。もちろん、あたしだけにするのよ」とかわいいおねだりをするので、おれの答えをはいかイエス以外にありはしないのだ。
ローが泣いてしまった理由は結局わからなかったけれど、おそらく家族の愛情に飢えていたのだろう。一応は保護者扱いであるが嫌っているドフラミンゴはもちろん、仲のいいコラソンにも自立したところを見せたくて頑張っているようだし、甘えられるのがおれしかいないのだ。ならばおれは今まで世話してもらった分、たっぷりとローを甘やかしてやろう。なにせおれにとってローは、かわいい妹分なんだからな!!