SSリクエスト祭 | ナノ


出航した船内というのは娯楽が少ない。海の中を進む潜水艦なら尚更だ。光も届きにくく、外を眺めても暗い風景しか見えてこない。静かな空間の中で出来るのは、カードゲームか読書か昼寝か雑談か。おれはもっぱら読書をして暇を潰しているのだが、今日はベポに誘われてみんなと賭けポーカーに興じていた。賭ける内容なんて大した額でも内容でもない。けれどみんなで遊ぶというのは楽しいもので、ついつい時間を忘れて熱中してしまったのを止めたのは「おい」という不機嫌そうなキャプテンの声だった。
「来い」の一言でおれの手からカードを抜いたのはシャチで、行けとばかりに背中を叩いたのはペンギンだ。こういう時に呼び出されても大概が大した用事じゃないことをおれは知っているが、周りは既におれを仲間に入れてくれないらしい。仕方なくキャプテンの後についてキャプテンの部屋に入ると、ベッドの上には本が散乱していた。今朝まではきちんと本棚に収納されていたのに。

「飽きたの?」
「肩がこった」
「…揉めって?」
「下手くそに頼まねェよ。そこに座れ」

クッと喉を鳴らして笑ったキャプテンの指示通り、ベッドの空いているスペースに座り込む。すると同じく隣に腰を下ろしたキャプテンは、おれの肩に背中を預けて寄りかかってきた。どうやらクッションが欲しかったようだ。もっと柔らかいものなんていくらでもあっただろうに。いや、寄りかかるならある程度硬さのあるものがいいのか。マッサージでも出来たらいいのだが、おれが以前キャプテンの命令で体を揉んだら「いてェ」と怒られてしまったのでそれに関しては全くの役立たずだ。仕方がない。おれは内科医であり、整体師ではないのだから。

「じゃあ、おれも何か読みたい。貸して」
「適当に拾えよ」
「ん」
「…おい、動くな」
「だって、手が届かない」
「仕方ねェな」

とってくれるのかと思いきや、キャプテンは立ち上がって何故かおれの膝の上に乗ってくる。背中を胸に預けて、体重を乗せれば確かに先ほどより安定するだろう。キャプテンは、の話だが。しかしおれは本を読めないしキャプテンを支えるのに腕を腹に回さなければならないのでむしろ何も出来ない。

「キャプテン?」
「読めよ、ほら」

にや、と意地の悪い顔をしながら顎で示したのは、キャプテンが持っている本だ。一緒に読めというのか。途中から?という顔をしていたのか、キャプテンは再び「仕方ねェな」と呟くと、ページをペラペラとめくり一番最初に戻した。

「これでいいだろ」

本を読むには確かに、いい。だけどおれの股間に尻を押し付けてきて揺らすのは、ちょっと、やめてくれませんかキャプテン。

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