「テメェにこんな趣味があったとはな」
蔑んだ目で見下ろしてくるクロコダイルの足元で、恭しくその爪先を持ってヒールの高いパンプスを履かせるおれはさぞかし滑稽に見えることだろう。なにせ相手は自分で靴も履けない幼児でもなければ、世話をされたがる甘えたがりのお嬢様でもない。普段は一分の隙すら見せないようにと気を張ってばかりの、強くておっかない七武海のサー・クロコダイル様だ。見るからに屈強な男相手に嬉々として女性用デザインの靴を履かせているのだから、そりゃクロコダイルでなくても蔑んだ目を向けるだろう。
長年、都合のいいビジネスパートナーとして振舞ってきたつもりだ。要求されたものを金と引き換えに用意し、痛くもない腹を探られないよう裏表なく行動してきた。疑り深い彼の理想に添うように振舞ってきたというのに、「つまらねェ男だな」と言われるのは甚だ遺憾である。
「じゃあ、金以外で欲しいものがあるんだけど」。挑発するような提案に、片眉を上げて面白そうに笑っていた顔が歪んだのはすぐのこと。「ヒール履いて、おれのこと踏んでよ」。そう言ったときのクロコダイルの顔といったら!
一瞬ぽかんと口を開けて、意味を理解したのか徐々に嫌悪に歪んでいく顔に、笑いをこらえるのが大変だった。変態野郎、と罵るくせに、顔を赤らめているのだから尚更だ。
いいから、はやく、お前が損するわけじゃないだろ、おれが履かせてやるから、ほら!
いつになく押しの強いおれに言いくるめられて、結局クロコダイルは執務机の上に腰掛け、女王様然とした態度でヒールの高いエナメルのパンプスを履かされている。目に痛いくらいの真っ赤なパンプスが、シックな色合いでまとめたクロコダイルの服装の中で一際目立っている。
「きつくないだろ」
「ああ、あつらえたみてェにな」
「あつらえたんだ。お前の足に合うように」
「いつから狙ってやがった?この変態が」
「いいね、その顔。なあ、早く踏んでくれよ」
滅多に見られない素足をパンプスごとさすり、指先でくるぶしをなぞると小さく震えた。指摘したら怒るだろうけど、隠せるとも思っていないだろう。ヤケになったようにおれの肩を蹴りつけたクロコダイルは、床に倒れ込んだおれを跨いで仁王立ちになる。履きなれていないヒールでも、立てるのはさすがの筋力のおかげか。子鹿のようによろよろと足元のおぼつかないのを期待していたのだが、これはこれでいい。
「にやにやしてんじゃねェよ、この変態」
その変態を踏みつけて興奮してしまったら、お前も変態だからな。サー。