おれはお前の一番になりたかったんだよ、と今更言っても遅いんだろう。ドフラミンゴはむっつりと口をへの字に曲げ、不機嫌を丸出しにしておれを見下ろしている。
おれとドフラミンゴは、曲がりなりにも恋人の関係だった。お互い居場所のなかった幼少時代から続く腐れ縁がどう歪んだのか、船旅の退屈と溜まった性欲、それからその場の雰囲気に流されて体の関係を持ったのが始まりだ。女を買えば良かったのに、そのあともずるずると続いてしまったのは思いのほか相性が良かったからだろう。彼にとってもそれだけのはずなのにおれはドフラミンゴをちゃんとした意味で好きになってしまったから、ファミリーを抜けさせられる末路も考慮してそれでも告白をした。笑って受け入れてもらえたのは、彼の懐の広さのおかげだろう。あるいは、それなりに実力を持ったおれをくだらないことで手放すのも惜しかったのかもしれない。どちらでも良かった。ドフラミンゴが笑って、「そうかい、おれもお前を気に入ってるよ」と言ってくれたから、おれの恋心は報われた。たとえそれが、明らかに恋情ではなく単なる駒に対する感情を言い表す台詞だとしても。
「いいのか?」
「別に、ドフラミンゴにどうこう言える立場じゃあないんだ、おれは」
「特別な関係になったと聞いたが」
「形だけの、な」
ヴェルゴが指し示しているのは、若く美しい女性を侍らして機嫌よさそうに笑っているドフラミンゴの姿だ。「恋人になりたい」と懇願したおれにドフラミンゴは笑って快諾をしてくれたが、それで満足出来たのは一ヶ月ほど。一ヶ月を超えると、ドフラミンゴはそれまでなくなっていた女遊びを再開するようになった。おれに見せつけるように、おれの見える場所で。仮にも恋人という関係になったおれに気を遣って控えてくれたのかと思ったが、おれのその思い上がりを潰すように女を侍らされては、何も言えることなどないのだ。きっとドフラミンゴも、おれにどうこうと意見されることは望んでいない。いいじゃないか。おそらく体の関係だけの彼女たちと違い、おれは少なからず『恋人』という地位を与えられているのだから。
「いいんだ」と首を振って笑ったのは、正直なところ強がりだった。本当は文句も言いたい。おれだけのものであってほしい。それでも我慢出来たのは、ドフラミンゴが他に『一番』を作らなかったからだ。ファミリーみんなを平等に愛していたから、おれは嫉妬に殺されずに済んだ。その均衡を崩したのは、ヴェルゴがドフラミンゴの命を受けて海軍に潜入することになるという話を聞いてからである。一番大事な、信用を何より必要とする役目を、おれは任されなかった。「相棒」と呼んでヴェルゴを頼りにしたドフラミンゴを見ると、「恋人」の地位にすがっていた自分がどうしようもなくちっぽけな存在に感じてしまった。
おれはドフラミンゴの一番になりたかったんだ。本当は、恋人じゃなくても良かったんだと思う。家族でも、友人でも、なんだってよかった。ドフラミンゴの一番になれるなら。それが叶わないならと、関係を解消したいと言ったおれは、間違ってないはずだ。間違っていると、思わない。今でも。
「今更、逃げられると思うなよ」
ドスの聞いた声で、おれを見下ろすドフラミンゴは今までになく怒っている。怒ってくれている。それだけで、またおれは幸せになれた。不快な気分にさせてしまったことだけが、唯一の後悔だ。
おれは、お前の一番になりたかっただけなんだよ。もう、きっと無理だろうけど。
両足を切り取られてまともに動けないおれは、きっともう、お前の役にも立てない、くずに成り下がってしまったから。