SSリクエスト祭 | ナノ


恵んでやる、とふてぶてしくクロコダイルが差し出してきた酒は、つまり彼の口に合わなかったのだろう。一時期はすぐさまゴミ箱に直行していたが、そのうちナマエに押し付けられるようになり、そのままナマエはそのクロコダイルの飲みさしを、クロコダイルには新しい銘柄のものを用意して時折一緒に飲むようにもなったのはおそらくクロコダイルがナマエの体質を知ってからだ。家系的なものなのか、ナマエはアルコールに弱い。酒自体は嫌いではないのだが、友人と飲んでもさほど量は空けられず、最終的には眠くなってしまう。クロコダイルがそれを知っていて酒をよこすということは何を企んでいるのかと訝んでいたが、クロコダイルが好むような高い酒を捨てられるわけでもなし、警戒しながらも酔って眠ってしまったナマエは別段なにをされているというわけでもない。単なる気まぐれか、それとも希少な親切か、とさほど気にせず恵まれた酒を恵まれるまま飲んでいたナマエは、気付いた。やはりクロコダイルは企んでいたのだ。

クロコダイルの部屋のソファーで眠ってしまったナマエは、唐突に目を覚ました。元々アルコールでの睡眠は浅い。ふとしたことで意識が浮上し、ぱちりと瞼を開けたナマエにクロコダイルの顔が飛び込んできて驚いたがそのクロコダイル本人も驚いたように身を引いた。パッと離れようとしたその体を掴んで引き寄せたが、引き寄せるのに力加減が馬鹿になっていて抱き込むようになってしまったのはまだ残るアルコールのせいだろう。ぼんやりと靄がかかったような頭で分かったのは、クロコダイルが異様に接近していたこと。そして上半身が酒で濡れていることだ。後者はいつもの水難による事故だと片付けても、クロコダイルが近すぎることにはなんの説明もつかない。「なにしようとしてた?」と聞いても、「なんのことだ」としらばっくれるだけでクロコダイルが素直に言うわけもないのは百も承知だ。どうやら、ナマエが寝ている間、気付かなかっただけでクロコダイルは何かしていたらしい。陰険な彼らしい、卑劣な行いだ。

「お前は、ほんとに…」
「離せ酔っ払い」
「なにしようとしてたのか素直に言ったらな」
「何もしてねェよクソが」
「ああそう」

どれだけ問い詰めようとクロコダイルが言うはずもない。素直じゃないその口を責めるようにがぶりと噛み付くとすぐさま振り払われて殴りつけられたが、濡れた手で押さえつけ体勢を変えてソファーに縫い付けると人を殺しそうな目で睨みつけるだけで大人しくなった。おれごときに反撃が出来ないほど弱いわけではないので、これはクロコダイルなりの降伏の形だ。そのまましゃぶるように唇を吸い、首筋を噛んで、顎の形を舌でなぞるように舐めればぶるりと震えるがやはり抵抗はない。クロコダイルもそれなりに酔っているということだろうか。いつもなら、もっと抵抗があって、殴り合いの喧嘩に発展した末にこのくらいの接触が許されるのだ。

「クロコダイル、舌出せよ」
「…死ね酔っ払い」
「その酔っ払いの寝込みを襲おうとしてたやつに言われたかねェよ」
「襲ってねェよクソが」
「ああそう」

これ以上の口論は不毛なのでやめることにして、もうクロコダイルの前で無防備に眠るのはやめた方が良さそうだ。なにをしていたのか知らないが、なにもされていないように感じた今までがなんとも不気味で恐ろしい。やはりクロコダイルの親切など、ろくなものではないのだ。

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