SSリクエスト祭 | ナノ


エースが正式に白ひげ海賊団の家族になった際、一番最初に預けられた隊の隊長であったナマエはそれはもうとにかくエースをかわいがった。元々面倒見のいい男ではあったがあまりにも構いたがるので、もしかしたら別の意味で気に入ったのではないかと噂が立ったくらいだ。本人は最初「そんなんじゃねェよ」と笑い飛ばしたが、話しかけてもまだ少しトゲトゲしかったエースが懐くようになったころ、再びそんな噂が船内でまことしやかに流れた。なにせ二人の距離がやたらと近いのだ。朝から晩まで一緒にいるのは当たり前、たまに一人でいるかと思えば互いに互いの姿を探していて、話すときは顔がくっつくんじゃないかと思うほどに接近している。日に日にエスカレートしていく二人のコミュニケーションの中でも、周囲が「これは確実だ」と思ったのはナマエがエースの頬にキスをした時だ。その日は珍しくナマエが先に起きてきていて、あとからやってきたエースが「おい先に起きるなら声かけろよ」と怒った声で甘ったれたことを言うので周囲は砂糖を吐くような思いをしていた。しかしそれだけでは飽き足らず、ナマエは怒るエースの腰を引き寄せて「悪かったよ」と甘ったるい声で詫びながら挨拶のように軽くキスをしたのだ。それをエースが赤い顔で「ん」と受け入れるものだから、その様子を一部始終眺めていた周囲は『これは確実だ』と確信した。むしろ『こいつらヤったな』とすら察したものだ。「おいバカップル見せつけてんじゃねーよ!」と野次を飛ばす兄弟にエースは「そんなんじゃねェよ!」と否定していたが、そんなもの今更である。人目もはばからずいちゃいちゃとくっついて、腰を抱き、キスまでして、「そんなんじゃない」というなら一体どんなんだと。照れて否定するくらいなら最初から人目を気にしろと、マルコはそう思っていたのだが。


「本当に、そんなんじゃねーんだよ」

しょぼくれて膝を抱えてしまったエースに、頭痛すらしてきた。エースの主張が正しいのであれば、本当に「そんなんじゃない」らしい。ではどういった関係なのかと言えば、単なる隊長とその隊員だという。そんな馬鹿な。

ナマエに用があって探しにきたマルコは、個室だというのに内緒話をするようにくっついて何か話していた二人に遭遇してげんなりした。「お熱いこって」とイヤミたっぷりに皮肉れば「そうだろ〜相思相愛だからな〜」とにやにやしながら答えたのはナマエだ。しかしエースはどこか不満そうな顔で「本当にそう思ってんのかよ」とナマエを小突くので、マルコはこの時少し違和感を覚えた。その違和感がはっきりしたものになったのは、ナマエが「ははは、冗談だよ」と笑い飛ばしたからだ。「エースに好きな女が出来たらこんな悪ふざけも出来ねェな〜」と、朗らかに笑いながらまたエースの頬にキスをするナマエに対し、エースはあからさまに傷付いた顔をするので、マルコは全てを察してしまった。なのでナマエの隊のことでの相談も後回しにして、エースを連れ出し事情を聞いたのだ。あまり人の色恋沙汰には首を突っ込みたくはないのだが、このままにしておいたら拗れるような気がして。その結果、思った以上に拗れていることが発覚してしまった。

「あいつ、おれのことなんかただの弟としか思ってねーよ」
「嘘だろい…あんなにべたべたしといてかい」
「べたべたしたいくらいには好きな弟なんだろ」

あからさまに落ち込んでいるエースの方は、どう見たってナマエを兄弟として見ていない。あれだけべたべたしておいて、これだけ好かれておいて、ナマエは何も気付いていないと言うのだ。これは面倒臭いことに首を突っ込んでしまったとマルコは今更ながら後悔したが、悩む末っ子を放っておくこともできまい。一肌脱いでやるかといつもの長男気質を発揮したマルコは、しかし予想していなかった。
近い将来、いつの間にかナマエの中で『マルコとエースが恋仲』という位置づけをされてしまい、奇妙な三角関係が出来上がることになるとは、このときマルコは全く予想していなかったのだ。

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