SSリクエスト祭 | ナノ


ナマエは踏むのだ。上官であるクザンの足を。しかもそれが事故ではなく一度や二度でもなく、毎度毎度わざとだというのだから周囲はいつナマエが海軍大将のお怒りを買うかと気が気ではない。「大将に向かってあの態度はなんだ」「殺されても文句は言わないぞやめろ」とどれだけ苦言を呈されたとしても、本人はケロッとしている。「こうでもしなければ、大将はあの長いおみ足でどこへなりともお出かけなさってしまうではないですか」。     確かに、その通りなのだけれど。


「クザン大将、どちらへお出かけですか?」

ナマエはそう言って、クザンの前に回り込むとその爪先を自分の爪先でもって踏みつける。ぎゅ、と床に押し付けるような圧力は痛みなど然程ないのだが、クザンは弱いところを掴まれたように「あららら」と首を傾げて頭を掻いた。

「すこーし、ね。息抜きだよ。書類整理ばっかりで肩が凝っちゃってさァ」
「では演習か遠征に切り替えましょうか?」
「いやー…それはそれで面倒臭ェなァ…」
「お散歩はついこの間もなさったではないですか。そうふらふらと何度も繰り返されてしまうと、またセンゴク元帥からどやされてしまいます」
「今日はすーぐ戻ってくるって」
「この間もそうおっしゃっていたではないですか。いけませんよ」
「いけませんか」
「ええ、いけません」
「あららら」

会話だけを聞けば放浪癖のある上司をやんわりと諌める部下だが、姿を見れば誰もがギョッと目を剥いてしまう。なにせ部下が上司の足を踏んでいるのだ。それも海軍本部最高戦力の一人である青キジの足を。
もちろんナマエにとて言い分はある。腰にしがみついたら引きずられ、腕を掴んだら一緒に連れ去られ、自転車を隠せば他の乗り物であっさりと逃避行を決め込まれてしまっては、あの手この手と試してクザンの放浪癖を止めるしかない。そうして最終的に一番効果的だったのが、こうやってクザンの足を踏みつけ歩けないように押さえ、顔と顔が触れ合いそうになるくらいの至近距離で説得する方法だった。周囲からの評判は甚だ不評だが、こうすることによってクザンの放浪回数はグッと下がったのである。なによりクザン本人が然程怒らないのだから、ナマエとしては活用しない手はあるまい。

「参ったなァ。おれねェ、ナマエに至近距離で見つめられるとどきどきして離れたくないなーってなっちゃうわけよ」
「そうですか!では今日も頑張って一緒にお仕事しましょう!」
「ねェ、わかってるよね?意味わかってるよね?」
「はい!仕事する気になるってことですよね!」
「あー…もー…馬鹿だねェ…」

なぜだかがっくりとうなだれるクザンはさておき、ナマエはさっさと仕事を終わらせてしまいたいのだ。今日こそは定時で終わらせて、絶賛片想い中の上司を食事に誘うのだという野望を叶えるために。


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