「…あ」 「あ」
夕食までの空いた時間、することもなくて早めに食堂に向かえば、先程頭を下げたばかりの男が隅の方に座っていた。目が合って、「アンタ、なにやってんの」と問い掛けたのは無意識に近い。だっておかしいだろ。なんであんなでっけェスープ鍋抱えて暗い顔してんだ。
「…温かいものが好きなんだ」 「ふーん…あ、寒がりとか?」 「……………ああ、まあ」 「暖めてやろうか?ほら、おれ炎なん、」
だ、と最後まで言う前に指先に点した火は掻き消された。男がまるで殺気のような覇気を放ってきたのだ。ぴんと張り詰めた空気と、般若のように歪められた顔が心臓をひやりとさせる。 今の会話のどこに、機嫌を悪くさせる要素があったのかさっぱりわからなかった。媚びを売ったつもりはないが、冷えているなら暖めてやろうという素直な好意だ。なのに何故。
「…構うな」 「……人見知り、なんだっけ」 「……………あァ」 「嘘だろ」
呟いた声は責めるような口調になっていたかもしれないが、たかが人見知りで殺気を向けられてたまるか。 それに、元スペード海賊団の船員とは穏やかに話している姿を何度か見かけたことだってある。人見知りだというのなら避けているはずだ。
この人はおれを憎んでいる。嫌っている。 それはもう、ごまかしようのない事実のはずだ。
「…言いたいことがあるならはっきり言えよ。男らしくねェな」 「………」 「今度はだんまりかよ。そんなにおれが気に入らねェか?」
煮え切らない態度にふつふつと腹が立ってくる。挑発するような物言いはよくないとわかっていながら、抱えた鍋に視線を落として黙り込んでしまった男がもそもそと小さな声で喋るので、苛立ちは更に加速する。
「おい、なに言ってんだか聞こえねェよ」 「…言っても、どうせ、わからない」 「何がだよ」 「気に入らないわけじゃない」 「…だったら、なんだよ」 「………ただ、苛々する」 「は?」
「お前を見てると、はらわたがちぎれそうだ」。弱気な態度から一転、再びぶわりと膨らんだ殺気に、どうしようもなく苛立ったのはおれだって同じだ。 なんだってんだこの人は。オヤジの命を狙ってたことを怒っているわけではないのはわかったが、おれに対しての不満の正体が一向に見えて来ない。ただ明確な敵意だけが嫌な記憶を呼び覚まして、どうしようもなく頭が熱くなっていく。 なにが、とか、なんで、とか、聞き返す冷静さはもうない。気付けば握った拳を、思い切り彼の顔面に叩きつけていた。
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