エース長編 | ナノ


多分、嫌われてる。というか憎まれてる。

白ひげ海賊団の一員になってから三ヶ月が経った。意地を張る必要もないと気付いてからは気のいい兄弟たちとも大分慣れ親しんで、仲のいい兄貴分も出来た。あれだけ反抗していたことも、みんな知らないかのように振る舞ってくれている。ありがたいことだ。

しかし、オヤジの命を狙っていた時から今までずっと変わらず、殺気を向けてきているやつがいるのも知っていた。最初はそれも当たり前だと気にしないでいたのだが、今になっても続くとさすがに気になるを通り越して申し訳なくなってくる。おれのくだらない意地が引き付けた憎悪の出所は、きっとオヤジに対する崇拝から来ている気持ちだ。オヤジが好きだから、今でもおれを許せないんだろう。



「ごめん、おれも馬鹿なことしたと思ってる」
「……………は?」

きっちり90°のお辞儀。今日も食堂でずっと突き刺さっていた視線の持ち主に、覚悟を決めて声を掛けた。一番隊のカイロはいつも難しい顔をして、寡黙で強くて、自分にも他人にも厳しいけど優しい、頼りになる男だとはおれより少しだけ先に白ひげの息子になった三番隊の下っ端から聞いた言だ。そんな人ならおれに怒りを抱いていてもおかしくはない。ただ黙っていられても困るのでおれから仕掛けた。の、だが。

「…は、え?」

当の本人は意味がわからないと言わんばかりの表情で、おれをじっと見た。てっきり冷たくされるか殴り合いの火蓋が落ちるかと覚悟していたおれも肩透かしを食らってしまう。間違えたわけではないはずだ。いつだってこの人から、暗く鋭い視線を受けていた。ふと目が合うと般若のように顔を歪めてからそっぽを向くし、近くを通ると吐き気がしそうなほど重たい空気が漂ってくる。間違いはないはずだ。それとも、シラを切ろうとしているのか。

「あー…エース、こいつがなんかしたのかよい」

彼の近くにいたマルコが困ったように頭を掻いて、彼の代わりにおれの謝罪を引き受ける。
なんかって、なんかしたのはおれの方で、それでこの人が怒ってるんだろう。違うのか?

「いつも、この人に睨まれてたから、オヤジのことで怒ってるんだと思ってたんだけど…」

おれの勘違いか?と首を傾げると共に、カイロとマルコが顔を見合わせた。
一拍置いて、二人とも無言のまま、何故だか突然マルコ渾身の蹴りがカイロの尻に飛ぶ。結構な打撃音がしたというのに、当の本人は「いてェ」と一言呟いただけだ。さっぱり意味がわからずに目を丸くしているおれに話し掛けたのは、やはりカイロではなくマルコだった。

「すまねェなエース、こいつ極度の人見知りなんだよい」
「人見知り?」
「おれからよーく、よーぉぉおく言い聞かせとくから、許してやってくれよい」
「いや、おれは別に…」
「そうか、助かるよい。じゃあな」

そそくさ、という表現が似合うほど、マルコはカイロを連れて足早に姿を消した。おれは呆気に取られて見送るばかりだ。意味がわからない。わからない、けど。

人見知りって、嘘だろ。


- ナノ -