エース長編 | ナノ


エースという新人がいる。少し前まで余所の海賊団の船長だった男だ。色々とあって今は彼の海賊団共々オヤジの息子となったのだが、最近ようやく意地っ張りが抜けてツンケンしなくなってきたエースを見ているとおれの嫉妬センサーがハンパなく疼き出す。もはや胃痛がしてくるほどのレベルだ。

彼はメラメラの実を食べた、炎の能力者だという。初めてそれを聞いた時、息が止まるくらいの絶望を覚えた。
おれの能力は湯たんぽ代わりになれる程度の能力。例えば寒い気候に震える仲間を温めてやったり、スープ鍋を抱き抱えて保温することで役に立つ。逆に言えばそんなことでしか役に立てないというのに、メラメラの実、だと?
そんな能力があったら、温めるだなんて生ぬるいことはない。
火は神だ。炎は命だ。全てを破壊し、たくさんのものを生み出す。彼の指先が燃え、真っ赤な炎がちらちらと空気をなめる姿を見ていると、どうしようもなく自分がちっぽけに見えてくる。
もしも「温かい」ではなく「熱い」くらいの能力だったら。「温める」ではなく「燃やし尽くす」能力だったら。そう考えたことが何度もある。炎に憧れていた。体温が上がっていく自分の体から、やがて火が生み出される夢を見ては叶わずに絶望していた。

お前がおれの憧れを持っていたんだな。
お前がおれの夢を叶えていたんだな。

きっと数少ないおれの役目も、瞬く間に彼に奪われていくんだろう。
ああ嫌だ。肩身が狭くて、爆発したい。


- ナノ -