エース長編 | ナノ


カイロは面倒臭い男だ、とマルコは思う。隊長格とまではいかないまでも一介の海賊にしては並々ならぬ実力があるというのに、当人はまるで気付かず、卑屈になって他人を妬み、そのくせ自己嫌悪に陥っては常に難しい顔をしている。
付き合いは長いし根はいい奴だとわかっているのだが、いかんせん時折敵よりも信用出来なくなる瞬間があるのも確かだ。
不死鳥の姿で空を飛び回ったり、不死鳥の能力で怪我を再生させたり、不死鳥の翼で敵を薙ぎ払ったりした時である。
矢で射るように鋭く、どろどろとして陰湿な覇気がマルコの体を貫く。あいつはおれを殺す気だ、と勘違いするほど強い覇気は、実際には羨望の眼差しでしかない。
いくらでも応用がきくマルコの能力に比べ、カイロの能力はカイロ自身の体温を上げるだけの能力。せいぜい湯たんぽ代わりにしかなれない、到底戦闘には不向きな能力だった。



「マルコ」

不機嫌な低い声で、カイロはこの海域の偵察から帰ってきたマルコを出迎えた。暗く澱んだ瞳は真っ直ぐにマルコに突き刺さる。青い羽、美しい炎、現存しないはずの鳥の姿。不死鳥のどれもが彼の気に触るのだ。羨ましい、妬ましい、と口よりも雄弁に語る視線を一身に受けながら、マルコは不自然にならないようゆっくりと人の姿に戻っていった。

「…ここらに敵船の影は見えなかったよい。嵐の気配もねぇ。平和なもんだよい」
「そうか」

言葉少なに頷いたカイロは、一瞬マルコから目を逸らして「おつかれ」と呟いた。右手に握られた水のボトルはマルコの為だろう。空を飛ぶと喉が渇くのだと随分昔に言ったのを、彼は今でも覚えている。だからこうして、暇な時には水を持ってマルコを出迎えてくれていた。

「ありがとよい」
「…ん」

差し出された水に礼を言うと、射殺さんばかりだった眼差しがふと緩む。こうしていればただの優しい男だというのに、カイロの気質はそれを良しとはしないのだ。
能力やカナヅチなんて関係ない。損をしているのは何より彼の性格だというのに、カイロ以外はみんな気付いていた。だからこそ、マルコは彼が不憫で放っておけない。面倒でも、殺気を感じても。彼の優しさを好いていたから。


- ナノ -