エース長編 | ナノ


かっこいい能力の能力者なんてみんな爆発すればいいのに、現実はそうもいかない。
この船には何人も能力者が乗っていて、そいつらは能力者でないクルーと同じようにおれの大事な家族なのだ。不死鳥マルコもダイヤモンドジョズも、おれの大好きな兄弟。爆発したら死ぬほど泣いてしまう。
そしてなにより我等がオヤジも、グラグラの実なんて反則なほどかっこいい上に卑怯なほど強い能力を持ってはいるが、オヤジが爆発したら迷わず俺も爆発することだろう。

しかし、いくら大好きだからと言って、僻む気持ちが全くないかといえばそんなはずはない。勇ましく能力を発動させる姿を見ると敵味方問わず般若の形相を向け、怨みがましい目でひたすらに凝視してしまう。能力者だけではない、果ては能力者でない人間が海に飛び込んで気持ち良さそうに水浴びなんかしているだけでも、眉間に山のような皺が作られて、歯茎から血が出るほど食いしばってしまうのだ。これがもはや条件反射になっているのだからどうしようもない。使えない能力とカナヅチを授かったおれが安らかな気持ちでいられるのは、能力者でない上にカナヅチである人間といる時だけだ。自分より下の人間を見て安心する残念な人間性に、自分でもほとほと嫌気がさす。矮小な人間だ。程度の低い能力がお似合いである。

悪魔の実を食べて20年、近頃になっておれは薄々感づいていることがあった。悪魔の実の能力とは、食べてからわかる一か八かのギャンブルではない。本当は悪魔の実が食べる人間を選んでいて、まるで運命のようにその者の前に現れ、自然な形で口の中に入るのを待っている。
だからマルコのように人格・実力共に申し分ない男が不死鳥の能力を手に入れたのも、ジョズのように屈強な男がダイヤモンドの能力を手に入れたのも、オヤジのように偉大な男が天災の能力を手に入れたのも、なんら不思議はない。すべてはそういう風に決められていたのだ。

それに対して、おれの何と矮小なこと。若造と呼ばれるのは昔となった今でも、受け入れられず他人を妬んでばかりいる。大切な家族にすら能力のことを話すのは恥ずかしくて、オヤジにすら一年、マルコに三年、他の隊長格には八年もの間黙っていた。それ以外のほとんどの家族には、ただのカナヅチであって能力者ではないと嘘をついている。格好悪くとも精一杯の見栄だ。

せいぜい寒さに震える仲間を温めるだけの能力が、おれには似合いなんだというのはわかっていた。わかっていたから、自己嫌悪。苦しくて他人に八つ当たり。そしてまた自己嫌悪。20年続いてきた悪循環である。

もういやだ。爆発しろ、おれ。


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