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むっつりと口をへの字に曲げたドフラミンゴは、わかりやすく拗ねていた。機嫌が悪い理由は明快だ。なまえとのセックスの最中に原因がある。

いつものようにとある島で落ち合ったなまえとドフラミンゴは、早々に服を脱ぎながらベッドへ縺れ込んだ。お互いの下着を剥ぎ取りながら舌を絡めて、脇腹をなぞる指先に素直に反応を示して。体だけの付き合いから恋人という関係に改めてからも、やっていることは変わらない。会えば犯されて、度を超す快楽に身を浸すだけだ。そこがなまえの自宅ならば食事を作らせてのんびりと寛ぐ時間もあるが、今回はベッドとシャワーくらいしかない簡素なホテルである。ならばやることはひとつ、セックスだ。

指や舌で興奮を煽られて、少々痛みを伴う愛撫でも感じてしまうようになってから、なまえはとろとろに解したドフラミンゴの穴に大きな性器を挿入する。やや強引に収まったそれで一度達して、余韻が落ち着く間もなく揺さぶられることで理性を失っていたので、ドフラミンゴは最初、枕元に置いた電伝虫の鳴き声に気付かなかった。
ぷるる、ぷるるる、と連絡を知らせる声は水をさすものではあったが、置く場所を移動させなかったのは二人の意思だ。片や海軍中将、片やドレスローザ国王。本当に何も仕事が入らないものとして過ごせる休暇はない。火急の出動要請でなまえに電話がかかってきたことも、裏の仕事の問題でドフラミンゴに連絡がきたこともある。それでセックスが中断したことも、多くはないが片手で数えきれる回数ではなかった。
枕元に置いてある2匹の電伝虫のうち、今回鳴いたのはなまえが所有している方だ。仕事が入ったのか、せめてあと二回はしてェな、とドフラミンゴが中に入っているなまえをきゅうきゅうと締め付けながら心地いい程度の快楽に浸っていると、なまえが取った受話器から流れてきた声は、しかし切迫した応援要請でも、申し訳無さそうな問合せでもない。『ようヤリチン野郎、元気か?』という、あまりにフランクでこいつ開口一番喧嘩売ってんのか、と思わざるをえない台詞である。

「…元気だが…今取り込み中だ。後にしてくれ」
『あ、ファックしてんの?じゃあ手短に肉じゃがの作り方教えてくれ』

ドフラミンゴは状況把握に優れている方だ。頭の回転も早いし、一を知れば十を理解出来る。しかし電話先の、おそらくはなまえをよく知っているのだろう相手がどういう神経をしているのか理解出来なかった。
人の情事をすぐさま察知した挙げ句、それを知りながら中断させてでも知りたいことが肉じゃがの作り方。料理本でも買って読めよ、と苛立ったが、海軍の暗号のひとつの可能性もある。
古来技術者の間では、生み出した危険な技術がそう簡単に扱えないよう料理の手順になぞらえて暗号とし、知識のないものには理解が出来ないようにしていたという。もしもそれが海軍でも適用されているのなら、なまえと電話先の彼にしかわからないやりとりが今ドフラミンゴの前で行われているのだろう。
しかしなまえが淡々とした声で「牛肉200gとじゃがいも5つ、玉葱は少し多めの方が甘味が出るし、白滝は入れなくてもいいが、入れるなら先に湯通しして臭みをとりなさい」と告げる内容は、どう捻って考えても普通に料理の行程だ。まして全てを聞き取った後、『助かったわ。お前美味い肉じゃが作ってきたってガープさんから聞いたからさァ。じゃ、新しい彼女さんによろしく』という捨て台詞を聞いてしまっては、いよいよこれは普通に肉じゃがの作り方を聞いただけで、単にこの男が空気を読めないだけではないか、と思い至った。
となれば話は変わる。こんな状況でドフラミンゴより空気の読めない男を優先したなまえ。ドフラミンゴは食べたことがない肉じゃがという料理を、海軍中将ガープに振る舞ったことがある事実。”新しい”彼女ということは、以前にも付き合っていた女がいるという過去。
さらになまえが受話器を置いた頃には、ドフラミンゴの中で硬く大きくなっていたなまえのなまえがしょんぼりと萎えてしまっていたのだから、その全てに苛立ちを覚えたドフラミンゴは、なまえを二、三発殴り付け、首を締めた。殺意さえこもった暴力を、もちろんなまえとて大人しく受け入れるわけはなく、全裸での軽い攻防が収まったころには既に今までの高揚感や熱がきれいさっぱり消えてしまっていた。

「…悪かったドフラミンゴ、機嫌を治して、こっちにおいで」
「うるせェ、帰る」
「そう言わないでくれ。あれはちょっと、常識がない友人なんだ。無視をしてもしつこいくらいに掛け直してくるだろうから、対応してやった方が早いんだよ」
「………」
「それとも、ガープさんに手料理を振る舞ったことで怒っているのか?”新しい”彼女と言われたことか?セックスを中断したことか?」
「………全部」
「すまなかった」

素直に告げたドフラミンゴに、なまえも素直に頭を下げる。今回ばかりは自分が悪いとわかっているのだろう。なかなか見られないなまえのつむじを見て、ドフラミンゴも少しだけ溜飲を下げた。

なまえはおそらく、友人が多い性格だ。穏やかで誠実で懐が広く、地位も実力もある。中身を覗けば少々辛辣でセックス大好きで人を追い詰めることに躊躇いがないという相反した性質も持ち合わせているが、それは余程深くまで付き合わないとわからないことだ。彼を慕う部下はいる。可愛がる上司も、頼りにする同僚もいるだろう。友人も恋人も、望めばいくらだって出来るのかもしれない。純粋なばかりではないなまえの本性を知る友人がいたとて、この歳ならば交際した女性がいたとて、なんら不思議ではないのだ。多くの部下や傘下を抱え、一国の王たるドフラミンゴとて似たようなものだが、人に対して『弄ぶ』ということをしないなまえには寄ってくる人間の質も違うだろう。優しくされただけで惚れてしまう誰かや、結婚したいと憧れる誰かがなまえを虎視眈々と狙っているかもしれない。だからこそ腹が立つ。恋人イコールおれのもの、という価値観をもつドフラミンゴには、恋人となったなまえが他にちょっかいを出されている様が許せないのだ。彼が海軍の所属でなければ、ガープも今の電話先の男も躊躇いなく殺していたに違いない。    いや、裏から手を回せば、あるいは。

「…事故に見せかけて…」
「こら、恐ろしいことを言うんじゃない」

半分冗談、半分本気の悪巧みを口から漏らすと、苦笑いしたなまえの手がドフラミンゴの腰を掴んで引き寄せた。くびれの部分を指でなぞられると、先程消えた欲情の熱が再び燻る。中途半端なところでお預けを食らったので、小さな火は簡単に大きく燃え上がった。キスをして、舌を絡めて、濡れている後孔を長い指で掻き回されて、内腿ががくがくと震えなまえの肩にしがみつくことでしか体勢を保てなくなったドフラミンゴは、仕方なく拗ねるのをやめた。時間は短い。今度こそ本当に火急の用事が飛び込んでくることも考えられる。ならば今は、怒るよりも、気持ちよくなった方が得策だ。

「はっ…ン、お前、明日仕事…?」
「ん?ああ…そう、明日から夏島へ遠征だ」
「ハッ、ご苦労なこって」

ベッドに押し付けられて、本格的に弄くり回される体がぞくぞくと寒気すら覚えるほどの快感を受け止めながら、ドフラミンゴはなまえの首に腕を絡めて引き寄せた。剥き出しの肩。興奮しているのか、少し赤く色付いた肌。そこにひとつキスをして、それから大きく開けた口でがぶりときつめに噛み付いた。

「…いたい」
「っァ、は、あっ、ちょっと、待て、てめ…っ」
「ん、足りないんじゃないのか?」
「ちげ…っ、印つけてんだよ…」
「しるし?」
「会えねェ間お前が浮気しねェように、おれのもんだって印だよ」
「…歯形で?」
「足りねェならキスマークも付けてやろうか?」
「…夏島なんだけどなァ」
「見せつけてやれよ」
「そうもいかないだろう」
「じゃあ、首も腕も全身ばっちり着込んでオシゴト頑張れよ?」

にんまり笑ったドフラミンゴに、なまえも悪戯っ子を甘やかす顔で笑った。「困ったな、熱中症で死んでしまう」と言いながら、満更でもない様子だ。ドフラミンゴがなまえに執着したり、独占したがる素振りを見せると喜ぶ彼のこと。口ではどう言っても、機嫌が良くなった様子を隠せないし、隠すつもりもないのだろう。これからえげつないほど容赦ないセックスをする男とは思えないほどいとけない顔でにこにこと笑っている。
それがちょっとかわいいな、と思ったドフラミンゴは、緩んでいるなまえの唇にがぶりと噛み付いた。時間は短い。やることはたくさんある。徐々に余裕がなくなっていくのを弄くり回されている下半身で感じながら、ひとつ、またひとつと、自分のものである印をなまえの体に刻み付けていったのだった。

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