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※netaのこれと同設定



「クザン、いーかげんにしなさい」

いたずらっ子を咎める母親のような口調でおれに呼びかけてくるなまえさんは、しかし実際おれを目の前にしているわけではない。家一つ分より大きな体の彼が住む、まるで運動場みたいに大きくてだだっ広い家。家具も食器も日用品も、全てがおれよりも大きく作られている。その中のどこかに、今おれは姿を隠しているのだ。タンスの隙間、食器棚の影、カーテンレールの上。隠れるところはどこにでもあって、おれはなまえさんがおれを探しにあっちへうろうろこっちへうろうろする隙をついて常に居場所を変えるのだからなかなか見つからないのは当然だ。
もちろん、見聞色の覇気を使えば大体の現在地を割り出すことなんて簡単だろう。しかしそれをなまえさんがあえてやらないのは、彼の家で一番最初にかくれんぼをしてすぐさま見つかってしまった時に「そういうのは卑怯だと思うんですけどね」と拗ねたふりをして以来、彼はおれがこの家で姿を消すとわざわざ時間をさいてこのくだらないお遊びに付き合ってくれるようになった。
別におれだって本気でかくれんぼなんて子供っぽいお遊びをしたいわけじゃない。構ってもらえればそれでよくて、ちょっとばかし困らせたくて、それでおれに手を焼いているなまえさんが見たいだけだ。
誤って踏んづけても死ぬわけじゃあるまいし、虫みたいにちょろちょろと動き回るおれのことなんて本当は放っておいても何も問題はないのに、呆れはしても決して怒らず、おれの気が済むまで相手をしてくれるなまえさんが好きでついつい彼の家にお邪魔する度に同じことを繰り返してしまう。あとはタイミングを見計らってなまえさんが見つけやすい場所に移動するだけだけれど、今日は遠征続きの後の久々の休日だからか疲れているらしい。面倒臭いと放り出したり感情任せに怒ったりはしないけれど、いつもより溜息が多いのはそのせいだろう。そんな状態でもおれに構ってくれる優しさを味わいたいのが半分、早く見つかってあげて二人でゆっくり休みたいのが半分。どうしようかなと悠長に考えていたところで、おれの名前を何度も呼んでいたなまえさんは少しだけ低い声になって、とんでもないことを言い出した。

「…今すぐ出てきたら、好きなだけキスしてあげるぞー」

    卑怯だ。

著しい体格差のせいで不意打ちのキスすらまともに出来ないおれに、しかも未だにおれのことを子供扱いして滅多に恋人らしいことをしてくれないなまえさんが、好きなだけキスをしてくれるだなんて出て行かないわけにはいかない。思わぬご褒美に一度固まって、それからすぐさまおずおずと姿を現したおれに、なまえさんは最初から居場所がわかっていたみたいにまっすぐにこっちを見てきて「いい子だね」と笑った。なんて卑怯な人!

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