500000 | ナノ


うちの船長は、あんなに色気たっぷりで男女構わず遊んでそうな雰囲気なのに、実際は今までに片手で数えられる程度の経験しか無かったらしい。知識や力をつけるほうに重きを置いていて、娯楽なんかそっちのけで頑張ってきたようだ。遊んでばっかで頭の悪いおれとは大違いで、ちょっぴり自分が恥ずかしくなったおれは、そのとき大量に摂取していたアルコールの勢いも借りて「じゃあおれが気持ちいいこと教えてあげる」と半ば強引に船長をベッドに誘ったのだった。
全然使い込まれてない性器を擦ってあげたりとか、小さい乳首を舐めたりとか、いつも居丈高の船長が大人しくしているのをいいことに、結構しつこくやってしまった気がする。三回くらいイかせてあげてから、ぐったりした船長の身体を拭いてベッドに入れて、眠るまで頭を撫でてあげたら、それから船長は気持ちいいことをしたいときおれを誘うようになった。「ヌくくらいなら自分でできるでしょ」って言っても、慣れてないせいか上手く自慰が出来ないらしい。売女を使うことを勧めても、「お前が一番楽だ」って言う。「お前がおれに『教えてあげる』って言い出したんだ。責任とれ」って少し拗ねたようにおれを責める船長を、おれだって別に面倒で突き放すようなことを言ったわけじゃなかった。本気になりそうなのが怖かったんだ。
おれの腕の中で喘いで、しがみついて、ねだるような視線を向けてくる目があまりにも色っぽくて、単純なおれが夢中になってしまうのは火を見るよりも明らかだったから、自分から仕掛けたことなのに怖くなって腰が引けた。
なのに船長がオナホールを使うみたいな気安さでおれを誘ってくるもんだから、やっぱりこの人ビッチじゃないかと腹が立って、船長の誘いに頷く代わりにおれも好き勝手やらせてもらうことにした。性器と乳首だけではなく尻の穴にも手をつけたり、イくのを我慢させて焦らしたり、口でも感じてしまうように指で舌や歯をしつこいくらい愛撫した。新しいことをしようとすると今までの常識に反するのか船長は少し抵抗したけれど、「気持ちよくなるよ」と囁けば顔を真っ赤にしながら大人しく受け入れるのだから本当にやらしい人だ。
腰をくねらせて、色っぽい声で啜り泣くみたいに喘いで、無防備に快感を追う船長に興奮しないほどおれだって我慢強いわけじゃない。触るだけじゃ済まなくなって本番までしてしまうようになるのは当然の成り行きで、その時だって船長は「指より太いの突っ込んだらもっと気持ちいいよ」の一言で受け入れてしまった。本当に経験がなかったのだろうかと疑ってしまうくらい簡単に。
今では「早く入れろ」と駄々っ子のように半泣きでねだられるのも珍しくはないくらいだ。焦らした方が感度がいいから、いつも意地悪してしまうけど、それも全部船長のためだ。気持ちいいことにハマってしまった船長のため。

おれは本当は、船長とセックスしなくてもいいと思っている。というか最近は、船長を抱くと少し辛い。
そりゃおれだって気持ちいいことは大好きだし、溜まったら発散したい。船長は誘ってくる以外まったくのマグロ状態で奉仕の精神なんて欠片もないけど、「これするときもちいいよ」と囁けばなんだってさせてくれるし、素直によがってくれるからおれだって気分がいい。身体の相性は良かった。船長もそう思っていることだろう。だから一夜だけのお遊びがずるずると続いてしまっていて、今ではあんな軽率に誘うんじゃなかったと深く後悔するはめになっている。

おれは、最初に懸念していた通り船長に夢中になってしまった。

セックスを覚えたてのガキみたいにヤりまくりたいとか、身体の相性が良すぎて船長以外で勃たなくなったとか、そういう意味ではなくて、船長のなにもかもが欲しくなったという意味だ。気安くに使えるアダルトグッズみたいな扱いじゃなくて、恋人みたいにいちゃいちゃしたいしおれのチンコだけじゃなくておれのことも好きになってほしい。
船長のことは尊敬してる。強いだけじゃなくて頭もいいし筋の通った信念も持ってる。おれもこんな男になれたら、と思ったから着いてきた。おれは頭が空っぽだから、船長に難しい話をされても眠くなってしまうし、気が遣えるわけでもないから戦闘以外ではほとんど役に立ってない。こんな関係になったのだって、船長に教えてあげられることが一つでもあったと浮かれて後先考えず手を出したのが原因だ。つまりおれが悪い。わかってる。おれがどんなに船長を想おうとも、船長はおれのことなんて単なるクルー、そしてベッドで寝てるだけで気持ちよくして後始末までしてくれる都合のいいダッチワイフだとしか思っていないだろう。今更「好きです」なんて言ったところで、そんな感情は望んでいないと切り捨てられるか、聞かなかったことにされるか、距離を置かれるかの悪い未来しか想像出来ない。けれどこのまま船長のダッチワイフのままでいるのは辛い。おれはセックスだけじゃなくて、他愛もないことを話したり、何もせずただ抱きしめて眠ったり、島に着いたら一緒に出かけたりしたい。いちゃいちゃしたい。ものすごく船長といちゃいちゃしたい。セックスなんて、やりまくったから正直今は食傷気味だ。こういうこと言ったら童貞のシャチにものすごく怒られるけど、ヤツにはセックスがゴールではないのだと言ったところで理解できまい。おれはとにかく今、船長といちゃいちゃしたい。らぶらぶしたい。これに尽きる。


「おい」
「んー…?」
「なに考え事してやがる」
「…別に?」

まあそんなことを考えていても言えるはずがないんですけどね。言ったところで所詮おれはダッチワイフ。セフレですらない、船長に気持ちいいことをしてあげるだけの存在だ。面倒くさいと切り捨てられるくらいなら、船長に求められるままにセックスしてた方がずっといい。
セックスするよりこのまま抱きしめ合って頭撫でて一緒に昼寝でもしたいな、と考えていたのが顔に出てしまったのか、訝しげな目を向けてくる船長に笑ってごまかしてその細い腰からベルトを引き抜いた。ゆっくり焦らすようにチャックを降ろしていくと、これから何をされるか理解しているそこは期待で既に張り詰めていて、それを見るとおれのムスコだって元気になるんだから結局おれも単純な男だ。気持ちいいことには素直に反応してしまう。

「なんか、言いてェことでもんあんのか」
「ないよ」
「ないって面かよ」
「…今日はどんなことしよっかなって、考えてただけ」

探るように指先で下着越しに硬くなったそれをなぞって、「縛ってみる?それとも目隠し?」と挑発するみたいに提案してみると、おれからされることは全部気持ちいいとわかっている船長はそれだけで興奮したように先走りをにじませた。こんなにエロくなっちゃって、今更セックスじゃないことしたいなんて、面倒だというより期待はずれだと思われてもおかしくない。やっぱり無理だな、と諦めた矢先、なにか引っかかるものを感じたのか、船長は「言いたいことあんなら言えよ」と追い討ちをかけてきた。言いたいことあるなら言ってるよ。それが言えることなら、とっくに。

「ないって、別に」
「あ、あー…っ、くそ、待て、まだ…っ」
「きもちいーでしょ、ほら早くヤろうよ」
「さきに、言えよ、気が散る…っ」
「ないって、なんにも」
「言え、はやく、い、ん」
「やけに突っかかるなァ」
「おれに隠し事が出来ると思うなよ…っ」
「…してないって。おれバカだから、船長に隠し事なんて出来るわけないじゃん」
「わかってんじゃねェか…」
「だから、なんもないんだって」
「…はやく言え、ばか」

そうだね、言えたらいいな、いつかね。

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