レイリー長編 | ナノ


リカーが仕事を終えて家に帰ると、件の居候の姿は見えなかった。リカーの惚れた女と仲睦まじく話している様子を見たのが今日の昼間のこと。今頃はホテルにでも行っているのかもしれないと考えたところで、シャッキーに発散して落ち着いたはずの感情が再びむくむくと膨らんでくる。

怒っているわけではない。憎んでいるならとうに追い出している。記憶にあるだけでも両手で数え切れないくらいに惚れた女を取られてはいるが、そもそも一方的に惚れただけで付き合ってもいないのに取られたという方がお門違いなのだ。だからこの胸に生まれる感情は、情けないという自責の念であった。酒とギャンブルと女をこよなく愛する駄目人間のような男に負けてしまうほど魅力のない人間、それが自分だとリカーは考える。深い深い溜息を吐いて、暗い気分を払うように頭を掻いた。
もうやめよう。悩んだところでいいことなんてなにもない。今日は店にも出さない秘蔵の白ワインを飲もう。香草をたっぷり詰めた兎を強火で焼いて、かりかりに焦げた皮と柔らかい肉をパンに挟んで食べるんだ。

よし、と気を取り直したリカーの耳に聞こえたのは、玄関のドアが開く音と機嫌の良さそうな「やぁ、きみの方が早かったんだな」だった。

「……おかえり」
「ああ、ただいま」

にこりと笑う頬にはキスマーク。居候の男、もといコーティング屋のレイは今日も絶好調のようだった。


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