サカズキ長編 | ナノ


思えば誰も、カルデラ本人から「サカズキが嫌いだ」などという悪態を聞いたことはない。嫌いだということは態度を見れば一目瞭然だったし、サカズキの嫌いな部分は聞かずともわかる、同期の共通認識だからだ。
カルデラには仲がいい海兵というのもいない。食事も着替えも訓練も一人で手早く終わらせてしまうし、空き時間は常にサカズキを怒らせることに終始していたからだ。

カルデラが今までサカズキのように孤立していると認識されなかったのは、おそらく同期の鬱憤を代表して晴らすような言動を繰り返していたからだろう。怪物並みに強くて短気なサカズキには、腹が立ったとしたとて誰も表立って文句を言えやしない。だから怖いもの知らずのカルデラがサカズキを殴ったり蹴ったりすると、可哀想だと思う者もいれば、よくやった、いい気味だと影で笑っていた者も確かにいたのだ。
お前もよくやるなァ、そんなにサカズキが嫌いかよ、でもやりすぎるとこっちにまで被害がくるんだからほどほどにしろよ。
そんな言葉を掛けて同期の面々は彼と仲間のように振る舞ってはいたが、     そうだ、彼は周囲の声に、なんと答えていただろうか。

振り向いて、適当に笑うだけ。
それだけだ。同期の誰も、まともにカルデラと話したことがないのだと、思い返して初めて気が付いた。

「んははははははははははははは!!!ひィやァはははははははははははははははは!!サカズキィ!今日も!大!噴!火ァアァ!!」
「何がおかしい!」
「きィーやァアァ!ころされるゥうふふふははははははははは!!!」

今日も響くカルデラの笑い声。初陣を終えてしばらくすると、カルデラはまたサカズキにちょっかいを出し始めた。「キチガイが、耳障りな声を出すな!!」。サカズキの怒声は、真っ当な抗議だ。カルデラは頭がおかしい、得体のしれない生き物だった。今更ながらにそれを理解して、同期の面々は背筋をうすら寒くさせるのだ。

カルデラは孤立している。ひとりぼっち、サカズキという敵を作り、それでもとても楽しそうだった。


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